「いつも自分を人と比べてしまう」「自分は損ばかりしている」。そんな想いで日々モヤモヤしている方、いませんか? そんなときにぜひ知ってほしいのが、今から2500年も前の中国の思想家・老子の言葉。45年間で10万人を診察した精神科医が、その老子の言葉を「意訳」ならぬ「医訳」をしてわかりやすく解説して話題の書籍から「ジャッジフリー」な考え方を連載形式でお届けします。
※この記事は『人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉』(野村総一郎/文響社)からの抜粋です。
悩める人が陥りやすい「4つの心的傾向」
そもそも人はどんな種類の「心の問題」を抱えてしまうのでしょうか?
よく見られる心の傾向というのは次の4つに分類することができます。ちなみに、これはうつ病の心理特性を表したものです。
1. 自分は弱い = 劣等意識
2. 自分は損をしている = 被害者意識
3. 自分は完璧であるべきだが難しい = 完璧主義
4. 自分のペースにこだわる = 執着主義
これを踏まえて、老子哲学の要諦を私なりにまとめてみると、おもしろいくらいこれらの心的傾向に対応していることがわかります。
1.劣等意識
「自分は弱い」「ダメな人間だ」「あの人はすごいのに、自分には何もとりえがない」というのはとてもよくある心的傾向です。こうした劣等意識は、自分の内側に向けられた感情ということができるでしょう。しかし老子は......
⇒強い者が勝つ、弱い者が負けるというのは思い込み
2.被害者意識
「あいつはズルくて、要領がいいから得をするが、自分はいつも割を食っている」という、いわゆる被害者意識は、自分の外側に向けられた感情ということができます。1の劣等意識と2の被害者意識を同時に持っているという人もけっこう多いと思います。しかし老子は......
⇒多くを望まなくていい
3.完璧主義
「自分は完璧でなければならない」「こう、あらねばならない」という完璧主義もよくある傾向の一つです。「完璧を求める」ということ自体が必ずしも悪いというわけではありません。その向上心がいいほうへ向かえば、仕事のクオリティを高めることもあるでしょう。
ただしそれが、自分自身を追い詰めているというのはよくあるパターンです。その結果として「自分はダメな人間だ」という1の劣等意識につながるということも、もちろんあります。しかし老子は......
⇒所詮、価値は相対的なもの。絶対的な価値基準など存在しない
4.執着主義
3の完璧主義と似ているようで、少し違う心的傾向に「執着主義」「こだわり主義」というものがあります。
自分の考えや価値観に固執するあまり、他人や自分と異なる考え方を受け入れることができない。そうやって孤立してしまったり、人間関係のトラブル、ストレスを抱えてしまうというパターンです。しかし老子は......
⇒自然のまま、流れに任せて生きるのがいい
もし老子が生きていたら、これらの心的特性について、このように話していたかもしれません。
いずれにしても、まず「自分はどういう心的傾向を持っているのか」ということを知っているだけでも、何かしらの対処をする一助になるので、この4つを覚えておくのはいいと思います。
私は精神科医として、こうした4つの心的傾向を(極端に)持つ人たちと日々向き合っているのですが、そうした人たちにも「老子哲学」が何かしらのきっかけとなり、気づきを与える可能性があると、現場を通して強く感じています。
老子哲学というのは、ある意味では「弱さを承認する思想」ですから、「甘えを認める哲学」と取られかねないところがあるのも事実です。
でも、今という時代を生きるには、老子のように「抜け道を行く」ような、ひょうひょうとした心持ちが、むしろ武器になるとすら思うのです。
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