たくさんの役割を担っている腎臓。実はその機能が低下しても、自覚症状に乏しい傾向があります。医療機関ではたんぱく尿等を調べる尿検査や、腎臓内の糸球体(しきゅうたい)という器官の働きの検査などの異常値が3カ月以上続くと「慢性腎臓病(CKD)」と診断しますが、CKDの早期段階でも自覚症状はありません。
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有効な治療法がないからこそ前段階で腎機能を守ることが大切
東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科診療部長の横尾 隆先生によると、
「CKDには有効な治療法がないため、その前段階で腎機能を守ることが大切になります。夏場の脱水症状は、CKDの前段階を悪化させるのです」。
夏場の脱水症状は、とくに腎臓の尿細管という器官にダメージを与えます。この器官には、何千種類もの成分を仕分けて尿を作る働きがあり、そのために多量の血液を必要としています。この器官が障害を受け続けると、この器官につながる糸球体も悪影響を受けてCKDになるのです。ただし、一般的なCKDの検査では、尿細管機能低下に関する項目は含まれません。そのため気付かぬうちに尿細管障害は進行するのです。
「尿細管の機能低下が進むと、ろ過する能力が落ちて体内の水分量調節もうまくいかなくなります。結果として、夜間にトイレへ行きたくなるのが特徴です。夜間の尿意は、「過活動ぼうこう」や「前立腺肥大症」といった別の病気と間違えて診断されることがあり、寝る前に水分を控えることで、腎機能低下をさらに進めることがあるのです」。
腎臓はこんな働きを担っています
■尿を作り出す
心臓から送られてきた血液を浄化し、余分な水分や毒素、老廃物を尿として排出します。ろ過機能が落ちると尿をうまく作ることができなくなり、悪化すると命に関わります。
■血圧を調整する
血圧を一定に保つため、血液の状態によって血圧を上げるホルモンのレニンを産生します。水分量や塩分量が体内に多いときには、血流も多くなるためレニンは産生されません。
■体内環境を一定に保つ
体内の水分量やナトリウム、カルシウムといった成分などを、体内で一定に保てるように調節しています。体内環境を一定に保つ、恒常性を担う役割が腎臓にはあるのです。
■ビタミンDの活性化
腎臓の酵素によってビタミンDが活性化され、カルシウムの吸収を促すことで骨を丈夫にします。腎機能が低下すると、骨粗鬆症になりやすくなります。
■血液をろ過する
心臓から送られる血液の1/4~1/5を受け取り、必要な成分と不要な成分を仕分けして血液をきれいにします。また、毒素を尿と一緒に排泄する重要な役割を担います。
意外に多い似た病気
■過活動ぼうこう
ぼうこうに尿がたまると尿意を感じる仕組みがありますが、尿がそれほどたまっていなくても、我慢できない尿意を感じるのが特徴。夜間頻尿や失禁などの症状につながります。
■前立腺肥大症
男性の生殖器の前立腺は、ぼうこうの真下、尿道を取り囲むように位置するため、前立腺が肥大すると尿意を感じやすくなります。夜間頻尿は、特徴的な症状の一つです。
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横尾 隆(よこお・たかし)先生
東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科診療部長。東京慈恵会医科大学卒、英国UCLへの留学などを経て2013年より現職。腎臓病の診断・治療のスペシャリストとして、腎臓の再生医療の研究にも尽力。