病気やけがをしたとき、それに関する用語(病名・症状など)の意味をそもそも知らなかった、なんてことはありませんか? また、時代の流れとともに「ADHD」「ノロウィルス」など新しい用語もどんどん現れています。
書籍『やさしい家庭の医学 早わかり事典』で、病気や健康分野の正しい知識を身につけ、いざというときに役立てましょう。
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突然で衝撃的な出来事を体験して起こる
「PTSD(ぴーてぃーえすでぃー)」
●震災やいじめなどでも発症
「PTSD」とは、「Post TraumaticStress Disorder」の頭文字を取った略語で、「心的外傷後ストレス障害」と訳されます。これは精神障害で、あまりにも突然で衝撃的な出来事を体験することによって起こるものです。 日本では、1995年の阪神・淡路大震災を契機に一般的に知られるようになりましたが、アメリカではベトナム戦争から帰還した兵士たちに多く見られる症状であったことから、以前より注目されていた病気でした。
皆さんは「トラウマ」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
これは「心的外傷」と訳されるもので、地震や洪水などの自然災害や、交通事故や列車事故などの人工災害、殺人事件などの犯罪などを目前にすることによって心に大きな傷となって残ります。これが、トラウマです。
最近では、このほか、いじめや虐待(ぎゃくたい)、家庭内暴力(DV)などによってPTSDが発症することもあります。 人の脳は、衝撃的な出来事に遭遇し、ショックを受けたとしても、日々過ごすうちに記憶が薄れていきます。
ところが、その出来事が自分の脳の処理能力をはるかに超えてしまうと、それに耐え切ることができず、PTSDとして心身に症状が現れてくるようになるわけです。 PTSDの症状としては、「再体験(想起)」(恐ろしい体験を繰り返し思い出したり〈フラッシュバック〉、夢に出てくる)、「回避」(自身が体験した状況などを意識的ないし無意識的に避ける)、「過覚醒」(交感神経が過敏に反応することにより、不眠やイライラが募(つ)のる)などが挙げられます。
また、つらい記憶に苦しむことを避けるあまり、感情や感覚の麻痺(まひ)が進んでしまい、いままで親しかった友人や家族に何の感情も抱けなくなったり、心を閉ざしてしまうようにもなってきます。
PTSDによって心に受けた傷や刻まれた記憶を完全に消すことは難しいのですが、心理療法や薬物療法によって回復させることは十分可能です。PTSDに罹(かか)った人がお互いに悩みを打ち明けるグループ療法や、トラウマとなった場面にあえて自分を置いて、「思い出しても危険はない」と感じ取らせる持続エクスポージャー療法などがあります。
薬物には、SSRIという抗うつ薬や抗不安薬などが用いられます。 震災やいじめなどが起こっている現代においては、PTSDに罹っている患者さんは少なくないといえるかもしれません。
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中原 英臣(なかはら・ひでおみ)
1945年、東京生まれ。医学博士。ニューヨーク科学アカデミー会員。東京慈恵会医科大学卒業。77 年から2 年間、アメリカ(セントルイス)のワシントン大学にてバイオ研究に取り組む。その後、山梨医科大学助教授、山野美容芸術短期大学教授を経て、現在、新渡戸文化短期大学学長、早稲田大学講師。おもな著書に『ウイルス感染から身を守る方法』(河出書房新社)、『こんな健康法はおやめなさい』(PHP 研究所)、『テレビじゃ言えない健康話のウソ』(文藝春秋)などがある。
『やさしい家庭の医学 早わかり事典』
(中原英臣[監修]/KADOKAWA)
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