足の指の間がかゆい、水ぶくれができる、皮がむける...これらはすべて水虫の症状です。日本人の5人に1人が水虫に感染しているといわれています。水虫の原因は「白癬菌(はくせんきん)」というカビ(真菌・しんきん)です。白癬菌による感染症を「白癬」といい、実はこのカビ、足だけでなく手や頭など体のいろいろなところに棲みつくことができるのです。
そんな白癬菌の性質や特徴、治療法や予防法を、白癬治療の第一人者、仲皮フ科クリニック院長の仲 弥先生に伺いました。
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白癬菌がいるかいないか、見極めには経験が必要です
「水虫かもしれません」と病院で診察を受けたとします。その際、目視だけで診察を終えるような医師でしたら、残念ながら信用できません。
白癬は病変部に白癬菌がいることを確認して初めて確定診断を下すことができます。診断には病変部の角質をピンセットや切れないメスではがし取り、顕微鏡で観察します。顕微鏡で見て白癬菌が見つかれば白癬、見つからなければ白癬ではありません。検査は10分もかからないので、通常はその日のうちに結果が分かります。
顕微鏡で見るだけというと簡単そうに聞こえるかもしれませんが、診断には十分な経験が必要です。検体を取るのは病変のどこでもよいのではなく、足の指なら病変部と健常部の境目、爪なら奥の方など、白癬菌が棲みつきやすい場所を見極める必要があります。
もちろん白癬菌と他の菌を見極める力も必要です。
当院で実際にあったエピソードを紹介しましょう。
ある病院で診察を受けたけれど「水虫が治らない」という患者さんが来院しました。しかし顕微鏡で調べてみても白癬菌はいません。そんな患者さんが何人か続いた後、「水虫です」という女性患者さんが来ました。その人にも白癬菌は見つからず、そのことを伝えると「自分で調べたときは白癬菌がいました」というのです。
よくよく聞くと、彼女は病院の検査技師で、それまで送られてきた他の患者さんは、彼女が「白癬」と判断した人たちでした。なんと彼女は、変性した角質層を白癬菌と見間違えていたのです。
他にも顕微鏡で見たときに白癬菌によく似たものがありますし、検査技師は皮膚科のスペシャリストではありません。水虫の診断は顕微鏡での観察はもちろん、患者とも向き合いながら経験で覚えていくものなのです。
医師の専門が皮膚科であるか、確認することも大切です
1人の医師しかいないのに「内科・婦人科・皮膚科・泌尿器科」といった具合に複数の診療科が標榜されているクリニックは、その医師の専門が何科であるかということに注意が必要です。
日本の病院は「自由標榜性」といって、麻酔科以外の科であれば自由に標榜することが認められています。皮膚科専門ではない医師でも皮膚科の看板を掲げることができるのです。日本皮膚科学会のホームページでは「日本皮膚科学会認定専門医」を調べることができます。専門医になるには皮膚科指導医のいる施設で5年以上研修しなければなりませんし、学会では白癬の診断・治療に関するガイドラインができています。
信用できる医師、病院を見つけることが治療には大切です。
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取材・文/ほなみかおり
慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部皮膚科医長、同・皮膚科専任講師を経て、1996年に仲皮フ科クリニック(埼玉県川越市)を開業。真菌のエキスパートとしてメディアに多数出演。埼玉県皮膚科医会会長、日本臨床皮膚科医会参与(前副会長)、日本皮膚科学会代議員、埼玉県皮膚科治療学会理事、日本医真菌学会評議員、日本皮膚科学会認定専門医。