ある年齢になれば誰もがある日、思います。「もしかして認知症では?」
親の場合は現実であり、深刻です。
2012年の厚生労働省の調査では、認知症と診断された人の数(推計)は、約462万人。長く生きればそれだけ発症の可能性が高くなる病気、それが認知症です。
『認知症は予防できる』(ちくま新書)の著書もあり、母親をはじめ老人の診療経験が豊富な、神経内科医の米山公啓さんに、どうすれば予防が可能か、一緒に伺っていきましょう。
前の記事:「米山公啓先生にきく「他人事ではない認知症」(1)どうやって予防するか」はこちら。
喫煙や高血圧症は認知症の独立した危険因子です。
米山 認知症は、ひと言で言うと、脳細胞が急激に減っていってしまう病気です。ご存じのように、認知症はアルツハイマー病と脳卒中によるものの二つに分けられ、患者数は8対2の割合です。年を取れば誰でも脳細胞は減りますが、それがアルツハイマー病の場合には急激であるということ。脳卒中の場合は、動脈硬化などによって血流が止まり組織が死んでいく、ということですね。いずれにせよ、まず可能な予防法、つまり発症の危険因子を減らすためには生活習慣病の対策をきちんとやりなさい、ということになります。
--- やっぱり、というか、すべては日々の暮らし方、生き方ですね。
米山 そうです。こういう話になると当たり前でつまらないけれど、簡単で当たり前のことの一番が、禁煙。タバコ吸って脳ドリルやるなんて、もってのほか(笑)。喫煙は、認知症の危険因子の一つです。それも、高血圧症、糖尿病、脂質異常症という生活習慣病と同じレベルの独立した因子です。
--- 高血圧症も? 抽象的な意味ではなく、はっきりと生活習慣病の人が認知症になりやすいというデータがあるわけですね。
米山 高血圧症の人は認知症予防に血圧を下げたほうがいいということは、日本の症例では出ていませんが、海外では、アルツハイマー病の独立した危険因子と考えられています。メカニズムは解明されていませんが。
--- 高血圧は脳卒中の危険因子としても挙げられていますね。ということは、毎朝、血圧を測ることは大事ですね。
米山 基本です。腕で測るタイプで。
--- それでは対策は?
米山 生活習慣病の3つとも薬で治せます。薬は嫌だから運動とか食事で防ぎたい、という人がいますが、間違いではないけれど、多くの人がうまくいかない。一時的に下がっても意味がないですからね。血圧を下げる、継続して下がっている、安定して基準値に近い、という事実に意味がある。
--- 薬はよくない、ということが頭から消えない。
米山 そういう人は、1年後に検査しても、高血圧症のまま(笑)。信念としてはともかく、医学的には血圧が下がらない、安定しないほうが薬より悪い。 血圧だけでなく、血糖値しかり。コレステロール値に関しては議論もありますが、悪玉コレステロール値を下げておくことは意味があります。
--- 長い間服用しますが副作用は気にしなくていいですか。
米山 初期にアレルギー反応があるかもわかりませんが、高血圧症に関しては致命的なことはありません。脂質異常症の薬によって、半年後に筋肉に異常が起きる場合はある。ただし、それは非常に低い確率です。
--- 糖尿病の薬とがんの関係が指摘されていますね。
米山 そういう調査がありますね。糖尿病の場合には、肥満や食事が関係しますから、そちらが先。というか、薬を併用しながら食生活を変えましょう、運動もしましょう、となります。というのは医者に会わないと継続が難しいから。
--- よいかかりつけ医と一緒に予防、が確実ということですね。
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聞き手/編集部 撮影(プロフィール)/木下大造
米山公啓(よねやま・きみひろ)先生
1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学に勤務。第2内科助教授を経て、98年退職。父親の「米山医院」を後継し臨床の現場に立つとともに、医学実用書はもとよりエッセイ、医学小説など、長年にわたって精力的に執筆を続ける。主な著書に『今日からできるボケない生き方』(三笠書房)、『できる人の脳が冴える30の習慣』(KADOKAWA)など。