ある年齢になれば誰もがある日、思います。「もしかして認知症では?」
親の場合は現実であり、深刻です。
2012年の厚生労働省の調査では、認知症と診断された人の数(推計)は、約462万人。長く生きればそれだけ発症の可能性が高くなる病気、それが認知症です。
『認知症は予防できる』(ちくま新書)の著書もあり、母親をはじめ老人の診療経験が豊富な、神経内科医の米山公啓さんに、どうすれば予防が可能か、一緒に伺っていきましょう。
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疫学調査で最も明らかなことは運動効果。
--- 認知症の予防の基本は、禁煙と生活習慣病対策、ということですが、ほかにもありますか?
米山 疫学調査で最も明らかなことは、運動をしている人に認知症が少ない、ということです。ただし過剰運動はよくない。炎天下でテニスを2時間とか。楽しむためのスポーツではなく認知症予防なら、30~40分のウォーキングを週3~4回、といった程度。その程度でも、やったほうがいい、となっています。これもやはり継続をしなければ意味がない。それに週1回の筋トレを加えるといいですね。
--- 疫学調査で明らか、ということは、低く見積もっても(笑)、やらないよりはやったほうがいい、ということが明らかということですね。食べ物はどうですか。
米山 〝これを食べれば"というものはありません。いわゆる日本食をバランスよく、としか言えないのですが、どんなことでも自分がいいと思うことは気分を明るくしますから、そういう意味ではいいと思えば何でも試してみたらいいと思います。
--- 認知症の薬そのものは今、どの程度まで進んでいますか。
米山 現在、進行を止める薬が4種類あります。いずれも、飲まない場合より飲んだほうが明らかに進行が遅れるという結果が出ています。例えば80歳で発症して90歳でもあまり変化がない。程度にもよりますが、時間と場所がわからなくなってもまだ元気、といったケースもあって、ある種の延命治療といえなくもないケースもあります。
--- 進行が止まることはないんですね。
米山 今はありませんね。ただ世界的な課題として研究開発に莫大なエネルギーがかけられていますから、新薬が見つかる可能性はあります。周辺症状といわれる、暴力とか徘徊、そういう症状を抑える薬はあります。それらは確かに効く人もいて、家族がらくになりますから、使い分けていく場合もあります。かつては暴力がひどくて閉鎖病棟に入れなければ対応できないといった患者さんが、今は少なくなった背景には、薬の開発の一方で、専門家や家族の接し方、その教育の成果が大きいと思います。
--- 確かに聞かなくなりましたが、その一方で老人に対する虐待や、殺人、徘徊の末に行方不明のまま、といった問題も報じられています。
米山 難しい問題もありますが、最初にも言ったように、時間と場所がわからなくなるところまでに至らずに、認知症であっても何とか助けを借りながら最後まで楽しく生きる道を、誰もが可能なようにしていきたいですね。
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聞き手/編集部 撮影(プロフィール)/木下大造
米山公啓(よねやま・きみひろ)先生
1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学に勤務。第2内科助教授を経て、98年退職。父親の「米山医院」を後継し臨床の現場に立つとともに、医学実用書はもとよりエッセイ、医学小説など、長年にわたって精力的に執筆を続ける。主な著書に『今日からできるボケない生き方』(三笠書房)、『できる人の脳が冴える30の習慣』(KADOKAWA)など。