一般的に高血圧などの生活習慣病を抱える人は、心臓の血管が詰まる心筋梗塞のリスクが高いといわれます。でも、高血圧の人が注意しなければいけない病気には、大動脈解離もあるのをご存じでしょうか。著名人の急逝で大動脈解離が原因と報じられることがありますが、突然死にもつながる怖い病気です。帝京大学医学部附属病院心臓血管外科診療科長の下川智樹先生にお話しを伺いました。
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生活習慣の見直しで高血圧や動脈硬化の予防を
国内の高血圧の人は約4300万人と推計され、治療などで血圧コントロールがうまくいっている人は、その約8分の1との見方もあります。大動脈解離は、高血圧と動脈硬化が原因になりますが、高血圧はそもそも動脈硬化を進行させます。また、糖尿病、脂質異常症、肥満でも動脈硬化は進み、老化も関係するために高齢になればなるほど、動脈硬化になりやすいのです。
「年齢が上がるにつれ、女性の患者さんが増えてきます。亡くなる方も、高齢になるにつれ増加します。そもそも大動脈瘤はコブが生じていても自覚症状はありません。大動脈解離も発症するまで自覚症状に乏しいのです。だからこそ、予防に努めていただきたいのです」と下川先生は話します。
血圧は日常生活のちょっとしたことで上がったり下がったりします。暖かい部屋から寒い屋外へ行く、熱いお風呂に入る、トイレの排便で息むといったときにも、血圧は上昇しやすくなるのです。高血圧で血管に圧力がかかったときに、動脈硬化で硬くなった血管は、その衝撃を分散することができません。結果として、心筋梗塞や脳卒中、そして、大動脈解離、大動脈瘤といった命に関わる病気につながるのです。
「大動脈解離の予兆を検診などで事前に把握するのは、難しいといえます。解離して血管の一部がコブのように膨らんでいると、CT(コンピュータ断層撮影)検査で分かりますが、血管の一部が全体的に少し膨らんでいるような状態では、検査で見つけにくいのです。原因となる高血圧の管理と動脈硬化予防が重要といえます」と下川先生はアドバイスします。
血圧管理では、毎日朝晩、自宅で測定するのが基本です。家庭血圧測定といい、130/mm以上は高血圧になります。減塩や減量を心がける他、適切な薬の服用も大切です。また、糖尿病などの生活習慣病も放置しないことが、大動脈解離などの血管病から身を守るには重要といえます。
春になって暖かくなると、血管が広がって血圧は下がりやすくなります。血管のしなやかさは、適度な運動によってよみがえらせることが可能といわれており、日頃運動不足の人は、少しずつ体を動かす習慣を身に付けるとよいそうです。日常生活で高血圧や動脈硬化の予防を心がけ、適切な治療を受けることが、大動脈解離などから身を守るために欠かせません。また、これまで感じたことのない痛みは放置しないこと。その心がけが大切といえます」と下川先生は話します。
高血圧や動脈硬化の予防を心がけ、気持ちの良い春を満喫しつつお出かけを楽しみましょう
●主な大動脈瘤の種類
血管壁の一部が膨らんでコブになった嚢状(のうじょう)大動脈瘤(イラスト右)と、大動脈の壁がまんべんなく膨らんだ紡錘状(ほうすいじょう)大動脈瘤(イラスト左)に分けられます。その他に、動脈の壁が完全に裂けてしまって、通常なら大出血するところを周りの臓器によって押さえ込まれ、あたかも瘤のように見えるものもあります。これを仮性大動脈瘤といいます。
大動脈瘤の治療法、ステントグラフト治療とは?
大動脈瘤の治療では、ステントグラフトという人工血管を用いる治療が普及しています。脚の付け根からカテーテルという細い医療機器でステントグラフトを動脈内に挿入して、患部で広げることで血流を確保し、コブへの血液の流入を防ぐ仕組みです。大動脈瘤が破裂するのを予防するためにも、重要な治療です。ただし、血管の状態によっては、手術によって人工血管に置き換えなければならないこともあります。病態によって治療は異なります。
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下川智樹(しもかわ・ともき)先生
帝京大学医学部附属病院心臓血管外科診療科長、主任教授。佐賀医科大学卒。榊原記念病院心臓血管外科医長などを経て2009年より現職。心臓血管外科専門医・修練責任者でもあり、心臓大動脈手術を多数手がけ、最先端のロボット支援下手術も行う。