お通じがスッキリしないと、下腹部に不快感があり、春物の薄手のスカートをはいたときにおなかがポッコリと出て、見た目にも「イヤだな」と思うことってありますよね。「病院へ行くほどではないけれども、なんとなく調子が悪い」という便秘は、放置すると大腸がんなどの病気のリスクが高まるので注意が必要です。順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生に聞きました。
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加齢とともに腸の動きが悪くなる理由は、自律神経の働きに関係しています。自律神経は、交感神経と副交感神経で成り立ち、呼吸や体温調節、発汗、ホルモンを分泌する内分泌系などの働きを調節しています。何かに驚いたときには、心臓がどきどきして冷や汗が出ることがありますね。これは交感神経の働きによります。一方、腸が便を肛門へと送り出すぜん動運動は、副交感神経の働きが関与しているのです。副交感神経の働きが悪いと、腸はうまく便を送り出すことができません。
「女性は40代以降、副交感神経の働きが低下し始め、腸がうまく動かなくなり、便秘になりやすいのです。市販の下剤を使って排便しても、腸の働きは改善しないので、便秘の解消にはつながらないのです」
腸が便を送り出すときには、腸を縮めたり広げたりしています。その働きに関与しているのが副交感神経です。便秘には「弛緩(しかん)性」「けいれん性」「直腸性」の三つのタイフ゜がありますが、中年期以降、副交感神経の働きの低下に伴い起こりやすいのは「弛緩性」。副交感神経の働きが弱いため、腸を縮める動きが弱くなり、腸が広がって便を送り出せなくなるのです。市販薬を飲んで無理に排便しても、腸が縮まる動きは改善しないので便秘は続くことになります。
「自律神経は、睡眠不足や不規則な生活、仕事や家庭内のストレスなどでも乱れます。それに拍車をかけるのがバランスの悪い食事や運動不足です。副交感神経を意識した上で、腸内環境を整えることが重要なのです」
自律神経は、生体リズムと連動しているため、寝不足などで生体リズムが乱れると自律神経にも悪影響を及ぼします。また、交感神経と副交感神経は、シーソーのように交互にバランスを保つため、過度なストレスで交感神経が優位な状態が続くと、副交感神経の働きは弱くなってしまうのです。仕事や家庭内のストレスはできるだけ軽減し、深呼吸してリラックスを心がけるなど、副交感神経を意識した生活が大切になるそうです。
<便秘のいろいろ>
弛緩性便秘:大腸の運動が低下
腸管の緊張が緩んでしまい、ぜん動運動が十分に行われないため、大腸内に便が長くとどまり、水分が過剰に吸収されて硬くなる。便秘の中でも頻度が高く、女性や高齢者に多い。
けいれん性便秘:大腸の過緊張
交感神経が過度に作用することによって、腸管が緊張し過き゛て正常な働きができない。そのために便が腸内でうまく運ばれずに、ウサギのフンのようなコロコロとした便になる。
直腸性便秘:直腸に便が停滞
便が直腸に達しても排便を促す反射が起こらない。そのため直腸に便が停滞してしまい、うまく排便できなくなる。排便リズムの乱れから起こってしまうことが多い。
上記の便秘を「機能性便秘」と呼んでいますが、その他に「器質性便秘」があります。「器質性便秘」は腸管癒着などの形態的な異常があって、消化管(小腸・大腸)に通過障害が起こるタイプの便秘です。
<消化管と排便のしくみ>
食べ物は食道から大腸を通り抜け、栄養分が取り込まれた後に残ったものが便となって肛門から排せつされます。食べ物が通る1本の道、食道から胃、小腸、大腸の直腸までの器官を総称して消化管と呼び、全長で約10mにも。
<小腸と大腸の働き>
●小腸
食事から摂った栄養素のほとんどを消化・吸収しているのが小腸です。食べたものは食道と胃を経て5~6時間ほどで小腸を通過し、大腸に送り込まれます。
●大腸
長さは、約1.5m。食道、胃、小腸に続いて、消化の最終段階です。どろどろの状態になっている食物のかすは、大腸を通り抜けるうちに水分が吸収されて固まり、便として排せつされます。健康な大腸は、腸の強く縮んでは緩む「ぜん動運動」という動きを繰り返すことで、便をスムーズに送り出していきます。大腸のうち、直腸を除いた部分を結腸といい、結腸はさらに上行(じょうこう)結腸、横行(おうこう)結腸、下行(かこう)結腸、S状結腸に分けて呼ばれています。
取材・文/安達純子
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順天堂大学 医学部教授。順天堂大学医学部卒。 ロンドン大学付属英国王立小児病 院外科やトリニティ大学付属医学 研究センターなどを経て、1995 年に順天堂大学医学部附属順天堂 医院に「便秘外来」を開設。日本 体育協会公認スポーツドクター。