職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?
"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第2回目です。
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前の記事「なぜ人は「禅の庭」に魅了されるのか?/枡野俊明(1)」はこちら。
◇人の手が及ばない要素にこそ価値がある
整っていることを「均斉」といいます。左右が対称であったり、すべてのバランスが整っていたりすることですが、禅において美しいとされるのは均斉ではありません。それをあえて壊した「不均斉」。そこに禅は美を見るのです。均斉は"完成した姿"つまり"終わりの姿"です。それ以上の可能性がない。そこから先の変化も、広がりも、深まりも、完成したその時点で終息しています。しかし、禅はその先を求めるのです。
「百尺竿頭進一歩(ひゃくしゃくかんとうにいっぽをすすむ)」
このような禅語があります。一〇〇尺(約三〇メートル)もの長い竿(さお)の先にいることは、もっとも高い境地にいることであるが、それでもなお、「さらに一歩を進めよ」という意味です。完成(均斉)にとどまるなということでしょう。
均斉を超えた不均斉をめざすのが禅です。その不均斉にこそ、つくり手の哲学や人間性が反映されると考えるからです。たとえば、西洋の陶器と日本の陶器を比べてみると、その違いはあきらかです。西洋の陶器は、フォルムも、デザインも、絵柄も、まったく崩れているところがありません。均斉している。それを美しいとするのです。
一方、日本の陶器はどうでしょう。西洋とはまるで趣が違います。茶器などを見るとよくわかりますが、微妙に歪んでいたり、肌ざわりが違っていたり......。その不均斉に作者の意図が表現されているのです。さらに、釉薬(うわぐすり)のかけ方、窯の温度、火のあたり方などでも、仕上がりは変わってきます。人の手がおよばない要素も加えているわけです。それを美しいとするのが禅であり、日本人です。不均斉は見る人、手にとる人の想像力を掻きき立てます。想像することによって、百人百様の美しさを感じとることができるのです。
◇シンプルだから飽きることがない
「禅の庭」はきわめてシンプルです。とりわけ、石と白砂だけ、加えてもせいぜい少しの苔(こけ)で大自然を表現する「枯山水」は、「簡素」そのもの。その在り様こそが、禅の美しさを象徴しています。
「禅の庭」づくりの基本は、"削(そ)ぎ落とす"ことにあります。削いで、削いで、もうこれ以上削ぎ落とすことができない、というところで成立しているのが「禅の庭」なのです。素材にも手を加えません。
たとえば、石でもあるがままの状態で、あらゆる方向から表情を読んでいきます。そして、もっとも美しい表情、その「禅の庭」のテーマにふさわしい表情を見きわめ、その面を「顔」として据えます。荒々しさややさしさ、激しさや静けさ、といった表情を読む「眼力」が必要です。
京都にある龍安寺(りょうあんじ)の「石庭」をご存じでしょうか。一五個の石を五カ所に配し、白砂に箒目(ほうきめ)を入れただけの、きわめて簡素な「枯山水」です。その空間に何を感じるかは人それぞれだと思いますが、いつまで見ていても見飽きることがありません。
簡素であればあるほど、深い奥行きと広がり、緊張感を感じさせるのです。
墨絵の世界も簡素の美といっていいでしょう。西洋の絵画は絵の具を塗り重ねていきますが、墨絵は、墨の濃淡だけでさまざまな色が表現されます。「墨に五彩あり」という言葉があります。「五彩」はさまざまな色という意味です。墨の濃淡が、見る人の想像力を喚起し、思い思いの色に変化します。簡素であるからこそ、どこまでも想像力をふくらませるのです。
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1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある
『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)
禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。