枯れた木の美しさ、つくろわないことの美しさ/枡野俊明(3)

pixta_30462872_S.jpg職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?

"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第3回目です。

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前の記事「「不均斉」「簡素なもの」に禅の美が宿る/枡野俊明(2)」はこちら。
 

◇枯れ長けた強さに宿る美しさ

「枯高」...枯れ長(た)けて強い、というのがこの言葉の意味です。少しわかりにくいかもしれませんが、老いた松をイメージしてみてください。

いまは老いた松でも、かつてはいきいきと枝を広げ、あざやかな緑を繁らせていたはずです。長い年月はその勢いを次第に陰らせていきます。風雪にさらされ、朽ちていく枝もあるでしょう。しかし、その姿には、若い松には感じられない厳とした存在感があります。そう感じさせるのは、何ものにも動じない、歴史を生き抜いてきた"練れた強さ"です。

老松のその風情こそが、まさに「枯高」であり、禅の美です。

高僧の墨跡(ぼくせき)(書)にも、これぞ枯高というものがあります。長きにわたる修行によって到達した心の境地を思わせる味わいです。枯れていて勢いがあり、迫力がありながら、これ見よがしのところがありません。「悟臭」の欠片(かけら)もないのです。

悟臭というのは、文字通り、悟ったことに自ら酔うことによって漂う臭気。悟臭は禅がもっとも嫌うところです。

「禅の庭」で枯高といえば、やはり「枯山水」でしょう。その景色は無類の存在感をもって見るものを圧倒します。作者の力量がいちばん問われるのも「枯山水」です。

禅に「枯木龍吟(こぼくりゆうぎん)」という言葉があります。

枯れて見える木が風に吹かれると、まるで龍のように猛々(たけだけ)しい音を発する、という意味です。これも枯高の姿といえます。

 

◇自我を捨て、無心になる

「禅の庭」をつくるときに心がけているのは、"つくろう"という意識をもたないということです。それがあると、「よく見せよう」「見る人を感動させよう」という自我が前面に出てしまい、いい結果にはならないのです。禅の世界では「自然」を「しぜん」ではなく、「じねん」と読みます。その意味は、たくまないことです。

「一華開五葉結果自然成(いっかごようをひらく けっかじねんとなる)」

花は五弁を開き、やがて実をつける。実をつけるために花開くのではありません。
花を開くことだけを一生懸命にやって、あとはおまかせしていたら、自然に実がつくということです。

「禅の庭」づくりも、そのときできる精いっぱいのことを淡々と実践する姿勢が大切です。そう、無心で臨むということです。そうしてできあがったものが、そのときの自らの心、自らの力量をそのまま(自然に)反映した「禅の庭」なのです。「禅の庭」はつくったあとも手入れが必要ですが、それも「自然」でなければいけません。手を加えるのは最小限に抑える。それを守っているのが京都の「禅の庭」です。伸びた枝や葉を、あるがままの姿に整えるのです。手入れをしたことがわからないほどのすぐれた技術です。

誰にでも自我はありますから、それを完全に捨て去ることはできません。それでも、できるかぎり捨てていく。「禅の庭」づくりでいちばん難しく、また、重要なのがそのことかもしれません。

 

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枡野俊明(ますの・しゅんみょう)

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある

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『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)


禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。

この記事は『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』からの抜粋です
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