40代半ばを過ぎて妙にイライラすると感じたら、更年期が始まっているかもしれません。更年期は、思春期と並ぶホルモンの大変動期で、疲労や肩こり、のぼせなど、これまで感じなかったさまざまな不調が起こりやすくなります。ひどくなると、更年期障害と呼ばれ、日常生活に支障をきたすこともあります。
この大変動期をできるだけ心地よく過ごすにはどうしたらよいのか、飯田橋レディースクリニック院長の岡野浩哉先生にお伺いしました。今回はその13回目です。
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ホルモン補充療法開始から5年未満なら、
乳がんのリスクは上がりません
ホルモン補充療法(以下、HRT)を始めると、人によっては不規則な出血や乳房の張り・痛み、下腹部の張り、吐き気、むくみなど、不快な症状を感じることがあります。大半は、続けているうちに気にならなくなったり、薬を変えることで治まったりしますが、心配な場合は医師に相談しましょう。
HRTを続けることで多くの人が心配するのは、乳がんのリスクではないでしょうか?
米国のWomen's Health Initiative(WHI)のデータによると、エストロゲンと黄体ホルモンを併用したHRTを5年間以上続けた場合は、乳がんになるリスクはわずかに上昇するといわれています。具体的には、1年間で乳がんになる人は、HRTを行っていない人では1万人中30人、HRTを行った人では1万人中38人で、HRT中止後は両者に差は見られなくなりました。
また、エストロゲンの単独投与の場合は、HRTによる乳がんの明らかな増加は認められていません。その結果、HRTによるリスクの上昇は、生活習慣などの要因によるリスクの上昇と同じかそれ以下ということが分かってきたので、現在では、HRTによる乳がんのリスクは小さいと考えられています。
近年は、日本でも乳がんになる女性が増え続けています。HRTを行っている、いないに関わらず、定期的に検診を受けて、早期発見・治療に努めましょう。
ところで、長期にわたってHRTを続ける場合、いくつか気をつけておきたいことがあります。HRTを長期にわたって行っている肥満の人や高齢者(60歳以上)は、行っていない人に比べて血栓症(※1)のリスクが少し増えるといわれています。また、高血圧の人や、薬に含まれるエストロゲンの量が多い場合は、脳卒中のリスクが少し増すとされています。心筋梗塞に関しては、HRTを始めた時期が60歳未満で閉経後10年以内であれば、リスクの増加は認められていません。
※1:血栓症/血管内にできた血のかたまり(血栓:けっせん)が血管に突然つまる病気。血栓が脳の動脈につまると脳梗塞を、心臓の動脈につまると心筋梗塞などを引き起こします。足の静脈に血栓ができる病気は、深部(しんぶ)静脈(じょうみゃく)血栓症(けっせんしょう)といいます。血栓が脳や心臓に飛ぶこともあります。
「HRTは、いつやめてもいい治療です。やめてみて再度、つらい症状がぶり返すならば、再開することもできます。安心して治療を続けるためにも、自分の体の状態を医師にしっかり伝えて、更年期のつらい症状を改善しましょう。」(飯田橋レディースクリニック院長 岡野浩哉先生)
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取材・文/笑(寶田真由美)
岡野 浩哉(おかの・ひろや)先生
飯田橋レディースクリニック院長。群馬大学医学部卒業後、同医学部附属病院産婦人科、 東京女子医科大学産婦人科などで臨床経験を経て、平成20年に飯田橋レディースクリニック設立。 「患者にやさしい医療」をモットーに、新聞・雑誌等メディアへ執筆多数。