テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。今回はその第2回目です。
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前の記事「免疫力は高すぎても低すぎてもダメ!/鎌田實「だまされない」(1)」はこちら。
学習し、記憶する免疫
三宅先生(免疫研究の第一人者で、順天堂大学膠原(こうげん)病リウマチ内科教授(当時)の三宅幸子教授)よると、「免疫は学習して記憶する」のだそうです。
インフルエンザのワクチンを注射すると、免疫がインフルエンザウイルスを排除する方法を覚えます。予防接種で打たれたワクチンと同じ型のウイルスであれば、感染しても、排除できるようになります。
一度はしかにかかると、免疫がはしかの攻撃方法を覚え、その後、感染しなくなるのはみなさんご存じだと思います。
実は僕の孫も小さい頃に卵アレルギーで、卵が食べられませんでした。しかし三宅先生に、「成長すると食べられるようになりますよ! 乳幼児のときは免疫も十分に成長していないし、学習も記憶もしていない未熟な状態ですから、刺激物を与えると過剰に反応し、激しいアレルギー反応が起きやすいのです。思春期ぐらいまでに、免疫も一人前に成長するので、その頃には食べられるようになるお子さんがほとんどです」とアドバイスを受けました。
はたして三宅先生の言う通りになりました。免疫は成長するのです。
免疫は怠けやすい
また、自然分娩で生まれた赤ちゃんは、帝王切開で生まれた赤ちゃんよりも病気にかかりにくいという研究報告や、都会で育った子供は、農村で育った子供よりもアレルギーの発症リスクが高いというデータもあります。
逆に無菌の環境や清潔すぎる環境では免疫は賢く育ちません。たとえば無菌状態で飼育されたマウスは、免疫細胞の数が少なく、病気にかかりやすいという研究報告があります。
つまり無菌で清潔な状態に慣れてしまうと、免疫は「敵がいないから働かなくていいや!」と怠けて働かなくなってしまうのです。
免疫はボケる
免疫は幼い頃は未熟で大人になると一人前になるのだから、もしかして、免疫の「老化」という現象もあるのだろうか......、心配になって三宅先生に質問したところ、「免疫も年齢とともに数が減ったり、働きが悪くなったりします。それが、病気やがんを発生しやすくしているのです。免疫もボケるんですよ(笑)」という答えでした。
最近、高齢者のはしかが増えていますが、これも「免疫のボケ」によって、子供の頃にかかったはしかの記憶がなくなってしまい、攻撃方法を忘れてしまったことで、発症すると考えられています。
いったい、どうすれば「免疫のボケ」を予防できるのだろうか──。
それには、メタボ、生活習慣病にならないことが肝心。特に肥満や糖尿病は免疫の働きを悪くさせ、敵の攻撃に負けて感染症にかかりやすくなったり、異常な細胞がないかどうかをパトロールして探す能力も下がったりするため、がん細胞を見逃してしまうリスクが高まる可能性があります。
肥満や糖尿病にならないために、具体的に僕が何をしているかと言うと、抗酸化力のある色素が入っている野菜を食べ、スクワットとウォーキングをこなすことです。
もうすぐ70歳。でも、すこぶる快調。世界中を飛び回っています。
「天使の免疫」を増やす方法
最後に三宅先生に、簡単に「天使の免疫」を増やす方法を聞きました。それは「笑うこと」だそうで、笑うことによりナチュラル・キラー(NK)細胞という免疫の善玉というべき細胞の働きがよくなるのだそうです。
NK細胞は病原体への殺傷力を持っている細胞で、がん細胞、細菌、ウイルスに感染した細胞を見つけて破壊し、さらなる感染の拡大を防ぐ役割を担っています。このNK細胞はストレスによって働きが悪くなったり、40歳以降から加齢とともに数が減ったりするので、ストレスを溜めないことを意識しつつ、年齢とともに大いに笑うことが何よりでしょう。僕は意識して笑うようにしていたら、いまでは無意識のうちによく「笑う人」になりました。
睡眠も免疫の働きを正常に保つために重要です。慢性的な睡眠不足は免疫の働きを悪くします。免疫の働きを健康な状態に保つためには7時間程度の睡眠が推奨されます。
ストレスを受けてもくよくよせず、楽観的にいつも笑顔で、よい睡眠をとるという基本的なことが、「天使の免疫」に身体を守ってもらうために必要なのです。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
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1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!