免疫力は高すぎても低すぎてもダメ!/鎌田實「だまされない」(1)

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テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?

だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。

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「免疫力を上げてがんに勝つ! 免疫力を高めて病気知らずの身体に!」
そんな宣伝文句の健康食品や健康本をよく見かけます。この文句に、医療者である僕はつねづね疑問を抱いていました。というのも、実は「免疫力」という言葉は正式な医学用語ではないからです。「病気をやっつける力」という意味として使われていることはわかりますが、実態とは別に、言葉だけがひとり歩きしているようにも思えるのです。

だまされちゃダメ。

免疫を簡単に説明しましょう。文字通り「疫(えき(病気))を免(まぬ)かれること」。自分の身体を外敵から守るために、自分と自分以外のものを見分け、自分以外のものを排除しようとする働きのことを言います。

この免疫力が高ければ「病気にならない」、さらには「病気が治る」、そんな雰囲気がつくられているような気がします。だから、病気がちな人や闘病中の人、がんに苦しむ人が免疫力を高めたいと切望する気持ちはわかります。

免疫研究の第一人者で、順天堂大学膠原(こうげん)病リウマチ内科教授(当時)の三宅幸子教授に詳しい話を聞いたところ、意外な答えが返ってきました。


免疫力は高すぎてもダメ

「免疫力は高すぎても低すぎても身体によくないのです。たとえば、アレルギーはある意味〈免疫力が高すぎる状態〉と言えます」

体内に卵や花粉などが入った際、くしゃみや鼻水、皮膚のかゆみや赤い発疹(ほっしん)などの症状が出るのがアレルギー反応です。そして、この反応を起こすように指令を出しているのが、実は免疫細胞の仕業(しわざ)なのだと三宅先生は指摘されました。つまり、免疫細胞が体内に入った花粉などの異物に対し、「敵だ!」と大騒ぎしすぎた結果、過剰に働いてしまい、卵や花粉など、本来なら騒がなくてもいいはずの相手にも暴走してしまう、これがアレルギーの正体だというのです。その結果、身体にダメージが出たり、日常生活に支障が生じたりするというわけです。

リウマチなども免疫の暴走で生じる病気です。リウマチは免疫細胞が関節や骨をつくる細胞を「敵」と間違えて、攻撃してしまうために起きる病気です。

円形脱毛症は毛髪をつくり出す毛母(もうぼ)細胞という細胞を、免疫が「敵」と間違えて攻撃してしまい、毛髪が抜けたり生えなくなったりしてしまう病気と考えられています。ストレスが直接の原因ではなく、ストレスによって免疫機能に異常を来(きた)している可能性が考えられています。


ときどき「敵」を間違える免疫

このように、自分の健康な細胞を敵と間違えて免疫細胞が攻撃して生じる病気を〈自己免疫疾患〉と呼びます。これらはどれも免疫の暴走や勘違い、過剰な活動によって生じる病気です。
だから「免疫力を高める」「免疫力を強くする」ということが無条件にいいことのように思われている状況に、違和感を抱く医師は少なくないのです。

免疫は僕らの身体を外敵から守ってくれる半面、敵を間違えてしまえば、自分自身さえも攻撃し、薬が効かない難病になったり、ときには命まで奪ったりすることもあります。実は免疫は「天使と悪魔」の二面性を持つものだったのです。

ここで免疫の攻撃力について三宅先生に詳しく聞いた話をご紹介しましょう。免疫が敵を攻撃するときには炎症反応が起きます。炎症反応とは、敵を攻撃するために、発熱、発疹、かゆみ、痛み、出血、細胞死などを起こすことです。炎症はその名の通り「体内で起こる火事」で、敵を火攻めにして殺すために起こりますが、免疫が暴走しすぎると、この炎症反応が止まらなくなるのです。いつまでも鎮火しない状況だと思っていただければいいでしょう。当然身体は大きなダメージを受けます。

大切なのは、「免疫をちょうどいいバランスで働かせること」。そうすると、その人の身体を守ってくれる「天使の免疫」「賢い免疫」として働いてくれるようになります。

※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら

 

次の記事「免疫は学習して記憶する。そして免疫はボケる/鎌田實「だまされない」(2)」はこちら。

免疫力は高すぎても低すぎてもダメ!/鎌田實「だまされない」(1) 鎌田 實(かまた・みのる)さん
鎌田 實(かまた・みのる)

1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。

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『だまされない』
(鎌田 實/KADOKAWA)

社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!

 

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この記事は書籍『だまされない』からの抜粋です

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