テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。
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前の記事「免疫は学習して記憶する。そして免疫はボケる/鎌田實「だまされない」(2)」はこちら。
「遺伝」にあやつられるな
「太るのも遺伝だから仕方がない」「がんの家系だから仕方がない」などと遺伝が挫折やあきらめの理由によく使われます。
たしかに僕も患者さんを診察するとき、問診票に書かれた「家族歴」、つまり両親やきょうだい、祖父母の病歴をチェックするし、それが患者さんの病気を診断する手がかりになることも多い。だからと言って、遺伝がすべてではありません。親が糖尿病だったら子供も必ず糖尿病になるわけではないのです。「遺伝がすべてではない!」、そう思っている僕なりの遺伝子情報とのつきあい方を示します。
糖尿病家系の僕の選択
僕の実の父親は糖尿病でした。会ったことがないので詳しくはわかりませんが、糖尿病が悪化して人工透析を受け、最後は脳卒中で亡くなったと聞きました。
だからと言って僕は遺伝子検査を受けようとは思いません。受けていないけれど、自分には糖尿病になりやすい遺伝子があると思っています。そもそも糖尿病になりやすい体質かどうかで気をもむよりも、糖尿病にならないよう生活に注意すればいい、そう考えています。
遺伝子検査で「糖尿病の心配なし」という結果が出ても、メチャクチャな生活をすれば糖尿病になるのは経験からわかっているからです。日本人は体質的に糖質の処理能力が低いので、糖尿病になりやすい遺伝子がなくても、注意していたほうがいいのです。
だから僕はスクワットとウォーキングをしています。いっときは79.8キロまであった体重も、いまは72.8キロまで下げました。焼肉屋にもステーキハウスにも、天ぷら屋にもよく行きます。そしてよく食べます。でも、その後数日間は糖質制限と運動をして、体重を73キロ前後に戻すようにしています。
遺伝子検査を上手に使って生活習慣を変えていくというのも、1つの生き方です。でも、遺伝子検査をしてもしなくても、結局運動と食事に注意することが大事なのは変わらないため、僕は遺伝子検査をしない、という選択をしています。
遺伝子に支配されない生き方
米国の医師デイビッド・B・エイガスが『ジエンド・オブ・イルネス』(日経BP社)という双生児研究の本を書いています。そこでは病気の発症を遺伝要因と環境要因に分け、それぞれがどのぐらいの比率で発症に影響を与えているかを示しています。ドクター・エイガスによると、糖尿病は64%が遺伝要因としています。
つまり、36%は自分の問題。だから人生はおもしろいと僕は思うようにしています。糖尿病遺伝子に支配させない。「オレが遺伝子を支配する」と思って、スクワットとウォーキングをしています。
糖尿病はいま日本人の国民病とも言えます。糖尿病一歩手前の患者さんも入れると、2050万人と推計されています。同書によると、アルツハイマー型認知症の遺伝要因は62%。〈アポE〉という遺伝子が影響していると言われています。
僕も健康に関する講演会に行ったことがある福岡県久山(ひさやま)町まちでは、アポE遺伝子を持つ集団は持たない集団と比べて3倍近くアルツハイマー型認知症を発症しています。ただ、この遺伝子を持っている人が発症する確率は28.8%。アポE遺伝子があれば必ず発症するというわけではありません。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
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1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!