複雑なメカニズムで動いている肩関節。加齢と共に痛みや腕が上がらないといった症状が現れてきます。そうした症状でまず思い浮かぶのが「五十肩」。東京女子医科大学・東医療センター整形外科准教授の神戸克明先生に、五十肩のメカニズムについてお話を伺いました。
五十肩は、肩が痛いだけでなく、腕の動きが悪くなるのが特徴。腕が上がらなくなったり、後ろに回すのがつらくなったりするものです。
「中高年になると、肩の骨(肩峰・けんぽう)に骨のトゲができやすくなり、それが腱板をこすって傷をつけることで炎症が起きるのが五十肩の始まりです」
と神戸先生。肩を触ると固い骨の突起に当たりますが、これが肩峰。中高年では滑液(ヒアルロン酸)が少なくなっている、つまり油が切れたような状態になっているので、治りが悪くなります。
そこで整形外科の治療ではヒアルロン酸を注射することで内部のすべりをよくして骨のトゲが腱板に引っかからないようにした上でリハビリを行い、インナーマッスルを鍛えます。痛み止めを使うこともありますが、原因は腱板の傷なので、この傷が治らない限り、痛みがとれることはありません。
ヒアルロン酸の注射は通常、2週間に1回、計5回行いますが、軽症の場合は1回で痛みが消え、肩を動かせる人もいます。
腕が90度まで上がらなければ『拘縮(こうしゅく)肩』
"気をつけ"の姿勢から腕を横に上げていき、90度まで上がる人であれば自然に治っていきますが(全体の8~9割)、90度まで上がらない「拘縮肩」という厄介な状態に悩む人もいます。
「骨のトゲがこすれてできた腱板の傷に炎症性の物質が生じて肩のまわりに広がってしまいます。炎症が抑まって痛みがなくなっても、内部でくっついてしまい癒着が起きて、動かなくなってしまうのです」
癒着するのは、例えばアニメでポパイが力こぶを作ると二の腕に盛り上がるところがありますが、その力こぶの筋のまわり。そのため、ひじまで痛いと訴える人もいます。
このように重症になると、骨のトゲを削ったり力こぶの筋の癒着をはがしたりする治療が必要になることがあります。
糖尿病の人は五十肩になりやすい
手術前に血液検査を行いますが、神戸先生はそのデータから五十肩と糖尿病の間に大きな関連があることを突き止めました。「97人のデータを調べたところ、全体で4人に1人、特に男性では3人に1人に糖尿病が認められました。そして、血糖値が高い人ほど五十肩の治りが悪いことも分かりました」
血糖値が正常範囲でも家系に糖尿病の人がいる人も重症化しやすいといいます。糖尿病になると、腱板の損傷部分が血行不良になるため、傷が治りにくくなるようです。
治療に納得がいかなければ肩の専門医へ
五十肩で接骨院などに通う人も少なくありませんが、ほかの症状を併発している場合には、腕を引っ張られたり、強くもまれたりすることで余計に痛みが増してしまう人がいるそうです。
「夜に痛みが強い、動きが制限されるというような症状が3週間続いたら、何らかの原因が考えられますので、医師(整形外科)に診てもらったほうがよいでしょう。症状について十分に説明してくれる医師のところに行くとよいと思います。そしてもし、その治療に納得がいかなければ、肩を専門とする医師に診てもらうことをお勧めします」
たかが肩の痛み、なんて侮らずに専門家を頼ったほうがいいようです。
次の記事「その痛み、五十肩ではないかも!? 肩のトラブル『腱板断裂』『石灰沈着性腱板炎』を知る」はこちら。
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神戸克明(かんべかつあき)さん
東京女子医科大学東医療センター整形外科准教授。肩関節外来で毎月のべ400人の患者を診察。五十肩、腱板断裂などの内視鏡手術は2003年より500例を超え、日本の医師の中で屈指。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医。