腰痛は多くの日本人を悩ませている病気で、その有訴者率(自覚症状のある人の割合)は男性で1位、女性で2位を占め、年齢が高いほど有訴者率も上がります(平成25年国民生活基礎調査)。それほど腰痛は身近な悩みなのです。
ヨーロッパでは"魔女の一撃"と言われる「ぎっくり腰」。個人差はありますが、何かの拍子で腰に"グキッ"とした痛みが走り、直後は日常生活もままならないことも。
この痛み、どのように対処したらいいのでしょう。予防法はあるのでしょうか。そこで日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医でもある東京都立多摩総合医療センター院長の近藤泰児先生にお話を伺いました。
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一度経験した"恐怖"が一因の可能性も
以前は、腰痛は臥床する(横になる)のが治療だと言われていました。しかし現在では、それは間違いだということが分かっています。動いている人と寝て安静にしている人とを比べると、治癒にかかる日数はあまり変わらないのです。
腰痛を発症した人のうち、仕事上の問題を抱えていたり、うつ傾向の人が多いという研究結果があり、腰痛にはストレスが関係していることが指摘されています。安静にし過ぎることで「腰痛=重大な病気」という気持ちが刷り込まれてしまい、それがストレスとなって腰痛が長引いたり、ぎっくり腰が慢性的な腰痛へと移行したりする可能性もあるのです。
また、ぎっくり腰がいったんは治ってもクセになる人がいて、これにもストレスが関わっている可能性があります。
一度経験すると、「またあの痛みが起こるのではないか」という腰痛に対する恐怖心が残ります。すると知らず知らずのうちに腰をかばって日常動作を行い、その結果、腰回りの可動域が狭くなり、体幹筋(胴体にある複数の筋肉の総称)も弱くなります。その状態で、中腰やひねる動作が加わると、再びぎっくり腰を引き起こすのです。
発症直後は安静にする必要があります。しかしある程度痛みが治まってきたら無理のない範囲で日常動作を行う方が、心理的にも身体的にも腰痛によい方向に働くと言えるでしょう。
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取材・文/ほなみかおり
近藤泰児(こんどう・たいじ)先生
東京都立多摩総合医療センター院長、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医、日本整形外科学会認定専門医・認定脊椎脊髄病医。1979年東京大学医学部卒業。都立駒込病院整形外科骨軟部腫瘍外科部長、東京都立府中病院(当時)副院長などを経て、2013年より現職。著書に『腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 正しい治療がわかる本』(法研)、『わかる!治す!防ぐ! いちばんやさしい腰痛の教科書』(アーク出版)など。