発症すると、チクチクする痛みや患部が熱くなったりして横になって寝るのもつらいのが、帯状疱疹(たいじょうほうしん)。後遺症に悩む人も多く、高齢になると罹患しやすいのが特徴です。今回は帯状疱疹やアトピー性皮膚を専門とする、本田まりこ先生にお話を伺いました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年9月号に掲載の情報です。
【前回】「帯状疱疹」の前兆や病院に行くべきタイミング、治療法...専門医の本田まりこ先生が解説
<原因>
水ぼうそうウイルスが暴れて起こります
1.水ぼうそうの発症
初めて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染したときは、水ぼうそうとして発症する。
2.潜伏期
水ぼうそう完治後もウイルスは長い間、神経節に潜んでいるが、普段は免疫力により活動が抑えられている。
3.帯状疱疹の発症
免疫力の低下、加齢、ストレスなどによりウイルスが増殖・再活性化。神経や皮膚に移動して炎症を起こす。
4.神経の損傷
皮膚症状は治っても神経そのものにダメージが残り、痛みを引き起こす(帯状疱疹後神経痛)。
数十年後に神経で暴れ出す
水ぼうそうのウイルス
帯状疱疹は、過去に感染した水ぼうそうの「水痘・帯状疱疹ウイルス」が引き起こします。
「ウイルスは水ぼうそう完治後も『神経節』(体の全身にある感覚神経の根元部分)に潜んでいます。通常は免疫細胞『メモリーT細胞』により活動が抑えられていますが、加齢による『メモリーT細胞』の減少や、過労やストレスなどで免疫力が低下するとウイルスが活性化し、神経や皮膚に炎症を起こします」と、本田先生は説明します。
体の片側、帯状に発症するのは、皮膚の領域と関係があります。
皮膚は体の左右対称に帯のような領域に分けられ、1つの領域は1つの神経根から伸びる感覚神経に支配されています。
ウイルスは神経に沿って移動し、発症はその神経が支配する領域内に限られるため、体の片側、帯状に現れるのです。
全身どこにでも現れ、特に多いのが胸からわき(30%)や顔(20%)。
腕や腹部、太もも、背中、まれにのどなどにも発症します。
発症する人の特徴は?
●日本では80歳までに約3人に1人が発症
●患者の約7割が50歳以上
●日本の成人の約9割がウイルスを体内に持っている
<後遺症>
帯状疱疹後神経痛とは?80歳以上の1割が移行する帯状疱疹の長引く後遺症
帯状疱疹がやっかいなのは、皮膚の症状が治った後も、痛みがしつこく残る後遺症「帯状疱疹後神経痛」を発症することです。
帯状疱疹から移行する人は5~30%とされ、高齢になるほど増加します。
「痛みを感じる神経そのものがウイルスのダメージを受けて損傷・変性してしまう症状です。帯状疱疹の治療が遅れた場合に起こりやすく、帯状疱疹を発症してから3カ月以上痛みが続くと診断されます」と、本田先生は説明します。
損傷した神経の回復は遅いため、痛みは長く続きます。
軽症なら約3~6カ月で治まりますが、5~10年にわたることもあるそうです。
主に薬で治療しますが、神経自体が痛いので、皮膚の抗炎症薬などは効果がなく、痛みを和らげる抗うつ薬などが処方されます。
「帯状疱疹の発症後1、2カ月たっても痛みが残っていたり、痛みがぶり返すときは早めにもう一度、皮膚科を受診しましょう」と、本田先生はアドバイスしています。
帯状疱疹の痛みの変化
(比嘉和夫:治療.2008;90(7):2147-2149より改変)
痛みが消えないときは?
処方された薬を飲み切り、皮膚症状が治まった後もまだ痛いときは、病院を再受診します。
治療法は?
抗うつ薬
神経障害による痛みに対して初期に処方されることが多い、一般的な薬物療法。
神経の興奮を抑える薬
「プレガバリン」などの抗けいれん薬、「ガバペンチン」などの抗てんかん薬などを処方。
鎮痛薬
神経活動全体に作用するオピオイド鎮痛薬などの処方が一般的。
神経ブロック
痛みを感じる神経やその周囲に麻酔薬などを注射し、痛みを速やかに鎮める。
その他
塗り薬、漢方薬、機器による近赤外線治療、電流を皮膚に流して薬の浸透を促す治療など。
その他の合併症にも注意を
帯状疱疹の治療が遅れた場合、発症部位により合併症を引き起こすことも。ウイルスが髄膜(脳や脊髄を覆う膜)や脳に炎症を起こすと、髄膜炎や脳炎を発症することもあります。
構成・取材・文/岡田知子(BLOOM) イラスト/ノグチユミコ