専門医が教える「軽度認知障害」予防・改善のための生活習慣。期待される新薬も

日常生活に大きな支障がなくても、もの忘れや家事や仕事にやる気が起きないことがありませんか。そのままにしておくと、認知症の予備軍である「軽度認知障害」になる可能性も。今回は、筑波大学附属病院 精神神経科教授 認知症疾患医療センター 部長の新井哲明(あらい・てつあき)先生に、「軽度認知障害」についてお聞きしました。

【前回】専門医が指南する!認知症予備軍の「軽度認知障害」をセルフチェック

新しい薬や診断法の研究・開発が進展

これまで軽度認知障害には有効な薬はありませんでしたが、2023年1月、軽度認知障害とアルツハイマー型認知症に対する新たな薬「レカネマブ」が、米国食品医薬品局(FDA)で迅速承認されました。

日本でも承認申請が行われています(下記参照)。

「現在、軽度認知障害では、多要素の非薬物的療法を長期間行うと、認知機能の低下を抑制する可能性がありますが、新薬を組み合わせることで、さらに進行の抑制や認知機能の改善が期待できるのではないかと思います」と、新井先生は話します。

日頃から認知機能の低下を防ぐと同時に、軽度認知障害の疑いがあったときには放置しないことも大切です。

中には、家族が異変に気付いても、本人が「もの忘れ外来には行きたくない」と強く拒否することがあります。

そんなときは近くにある地域包括支援センターに相談してみましょう。

必要な場合には、スタッフが自宅を訪問してくれることもあります。

新井先生のチームでは現在、タブレット端末とAIによる新しい診断法も開発しています。

認知機能が落ちるとペンの使い方も変わる特徴から、高齢者がタブレット端末に描画したデータから描画速度や筆圧などをAIが自動分析し、認知機能低下を検出します。

「軽度認知障害や認知症の診断は時間もお金もかかり、場合によっては身体的な負担も大きくなります。軽度認知障害を早期に発見・治療し、認知症への移行を防ぐ。そのための新しい診断法や治療法の実用化を目指しています」

《今後の治療法として期待される新薬「レカネマブ」》

「レカネマブ」は2023年1月、日本で承認申請された新薬です。認知症の約半数を占めるアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質が沈着し、脳が萎縮することにより起こると考えられています。

「レカネマブ」は症状を完治させる薬ではありませんが、アミロイドβを除去して進行を抑制する働きがあり、症状の軽度な状態を2~3年延長することが可能とも報告されています。

アメリカでは日本に先駆け、2023年1月に迅速承認され、軽度のアルツハイマー型認知症と軽度認知障害に対して適用されています。


「軽度認知障害」の予防・改善のための生活習慣

生活習慣病はすぐ治療する

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脳の血流を維持することが軽度認知障害の予防に役立ちます。生活習慣病は動脈硬化を促し、血流を悪くするので、バランスのよい適量の食事や運動習慣などにより改善しましょう。

外出の機会を増やし、社会と関わりを持つ

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人との関わりが多い人ほど認知症リスクが低いことが報告されています。外出して友人や親族と話す機会を増やし、地域のサークルやボランティアなどにも積極的に参加を。

日々の出来事を思い出す

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旅行などの楽しい出来事を思い出すことは脳機能の活性化に役立ちます。人に話すほか、日記をつけるのもおすすめ。昨日の出来事を思い出しながら翌日に書いてみましょう。

楽器を演奏したり、カラオケで歌を歌う

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五感を刺激することも脳の活性化につながります。楽器の演奏やカラオケを楽しみましょう。絵を描くのもよいそうです。音楽や絵画などに触れて、新たな刺激を受けましょう。

軽度認知障害の主な検査法

長谷川式簡易知能評価スケール

「年齢はいくつですか?」などの質問を医師が患者に行い、回答を点数評価して認知症のリスクを診ます。これだけでは認知症の種類は分からないため、画像診断などと併せて診断します。

MRI

アルツハイマー型認知症では脳の萎縮が見られます。それを調べるのがMRIによる画像検査です。海馬の萎縮が明確に分かり、認知症の種類の判別にも役立ちます。CTの場合もあります。

脳血流SPECT検査

認知症はアルツハイマー型や脳血管性など、種類により脳で低下する血流の場所が異なります。この検査ではMRIなどでは分からない脳の機能低下部位を知ることができます。

PET検査

脳のエネルギー源となるブドウ糖の代謝の状態や、アルツハイマー型認知症で増加するアミロイドβなどのたんぱく質の蓄積が分かります。保険適用外で費用は20〜30万円前後が一般的。

取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

筑波大学附属病院 精神神経科教授 認知症疾患医療センター 部長
新井哲明(あらい・てつあき)先生

1990年、筑波大学医学専門学群卒。東京都立松沢病院精神科、東京都精神医学総合研究所などを経て、2016年より現職。認知症の早期発見・早期治療の診断・治療・研究に尽力し、新たな診断ツールの開発も行っている。

この記事は『毎日が発見』2023年4月号に掲載の情報です。
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