うつ病を遠ざける「生活習慣」と「治療法」。最大の予防策は「毎日変わらない生活」

対人関係など、強いストレスによって引き起こされると思われがちなうつ病ですが、実は幸せなライフイベントの中にも、発症の引き金が隠れている場合があります。自覚がないまま症状を悪化させてしまうと、命に関わる事態を招くことも...。そこで今回は、杏林大学名誉教授の古賀良彦(こが・よしひこ)先生に「うつを遠ざける生活習慣&治療法」についてお聞きしました。

【前回】あなたは「うつ」になりやすいタイプ? 「うつ病」セルフチェックと、心と体に発生する主な症状

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最大の予防法は毎日変わらない生活

うつ病は中高年で発症しやすく、親の介護や経済的な問題など、ストレスを感じやすい出来事が引き金になることがあります。

一方で、子どもの独立や結婚といった幸せなライフイベントがきっかけになることも少なくありません。

「うつ病の予防は難しいのですが、日常生活を淡々と過ごすことが有効手段の一つです。毎朝同じ時間に起きて、1日3回の食事、仕事や家事を毎日同じようにこなしていくのです。生活リズムと生体リズムを乱さないことが大切といえます」と古賀先生。

日常生活のリズムに波風を立てることなく、日々変わることなく過ごすとよいそうです。

加えて、毎日たまるストレスは、できるだけその日に解消することも、うつ病を退けるために役立ちます。

「ポイントは、ちょっと夢中になれるものに取り組むことです。塗り絵や切り絵、折り紙など、手先を動かせて簡単なことに、30分程度取り組むとよいでしょう」と古賀先生はアドバイスします。

ただし、趣味に没頭し過ぎるのはよくありません。

「うまくいかないのはなぜ!?」といった悩みを抱えるような習い事は避けましょう。

毎日気軽に楽しめて、ちょっと気分転換できる方法を探すのがコツです。

手先を動かすのが面倒ならば、アロマの香りでリラックスするのもおすすめです。

「飲酒での気分転換は注意が必要です。つらい気持ちをアルコールで紛らわせるのはよくありません。うつ病にアルコール依存症が合併することは、少なくありません」と古賀先生。

家族がつらそうだったらそっとサポートを

うつ病予防を心がけても、対人関係のストレスやライフイベントは避けることができません。

「最近、眠れなくなってきた」というときにはご用心。

「そのうち治る」と思っていると、うつ病の症状がどんどん悪化し、思考能力や身体活動能力にブレーキがかかることで、本人は身動きが取れなくなります。

「ご家族の方は、つらそうなご本人に『睡眠障害の改善のために一緒に精神科へ行きましょう』とすすめてみてください。眠れない状態を改善したい気持ちは、ご本人も持っているはずなので、受診のきっかけになります」と古賀先生はアドバイスします。

抗うつ薬によって患者さん全体の約3分の2は、症状が軽減して元気を取り戻し、うつ病を克服できるそうです。

残りの3分の1は、治療が長引きやすいのですが、治療を継続することで症状を抑えることができます。

いずれにしても、早い段階での診断・治療が重要です。

「うつ病の患者さんは真面目な方が多いので、通院していること自体『家族に申しわけない』『自分がいなければ』と強く思ってしまう傾向が見られます。ご家族は、病気を責めずにそっと見守ることが大切です」と古賀先生。

うつ病を遠ざけながら適切に対処することで、うっとうしい梅雨の時期も、楽な気持で過ごしましょう。

うつ病を遠ざける生活習慣&治療法

生活習慣

1日3度の食事をなるべく決まった時間に

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生活リズムを乱さないことが大切。1日3度の食事はリズムを整えるのに役立ちます。

散歩や日光浴を毎日行う

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朝日を浴びて体を動かすことで、睡眠リズムと生体リズムを整えることができます。

1日30分程度リフレッシュ

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ストレスはその日のうちに解消するのがカギ。気分転換を毎日30分程度心がけて。

気分を紛らわすための飲酒はしない

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深酒による気晴らしの飲酒はアルコール依存症につながるためやめましょう。

その他に

決まった時間に起きて寝る習慣も大切。睡眠障害が続くときには医療機関で受診を。

治療法

精神療法
うつ病の場合は、患者さんに病気の理解を促し生活指導を行うなど、精神療法が中心になります。

薬物療法
薬物療法は必須の治療です。眠気やふらつきが生じることがあるので、専門医による治療が重要になります。

その他に
患者さんを支援し心の痛みを和らげる精神療法の一つ、認知行動療法は、物事に対する前向きな考え方を育み、中等症や重症でも改善しやすく、再発予防にも役立ちます。

うつ病と認知症は似ている?

認知症には、物忘れから始まって知的な能力が病的に極端に衰え、日常生活動作(ADL)が損なわれ、最初の症状のサインがうつ病のような気分障害のことがあるのです。逆に、うつ病で思考にブレーキがかかると認知症と間違われやすい。似たような症状は専門医の鑑別が必要になります。

取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

<教えてくれた人>

杏林大学名誉教授
古賀良彦(こが・よしひこ)先生
1976年慶應義塾大学医学部卒。医学博士。99年杏林大学医学部精神神経科学教室主任教授、2016年杏林大学名誉教授。うつ病や睡眠障害などの診断・治療・研究を数多く手がけている。

この記事は『毎日が発見』2022年6月号に掲載の情報です。

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