リモートワークが続き、ねこ背の人が増加中です。これは自律神経の不具合、血流障害、内臓の圧迫...体内からさまざまな不調を起こします。そういう不調に悩む人を数多く改善に導く整体師・片平悦子さんの著書「きれいな姿勢に生まれ変わる ねこ背伸ばし」(アスコム)から、ねこ背のメカニズム、改善メソッドをご紹介します。
【前回】ねこ背で内臓が潰されると便秘により体内から健康が乱れる/きれいな姿勢に生まれ変わる ねこ背伸ばし
背中が丸いとココロも沈む!?
ねこ背が気持ちを暗くすると聞いたら、皆さんは「確かに、背中が丸いと陰気っぽいよね」と思うかもしれません。
そして「でも、気のせいよ」と続けることでしょう。
人間、うつむいていれば気分も暗くなるし、上を向いていれば明るくなるものです。
でも、決してそれだけのことではありません。
ねこ背になると、下の図で黒くぬった場所のうち、第4~7頸椎(下位頸椎)と第1~5胸椎(上位胸椎)が硬くなるという特徴があります。
脳と体をつなぐのは背骨
この部分は全身と脳をつなぐ重要な神経の束が通っています。
つまり、図で黒くぬった場所は、脳と体をつなぐとても重要な場所。
いわばエネルギーを運ぶパイプラインのような箇所なのです。
ここが硬くなると神経の束が圧迫され、体液の流れが悪い状態になってしまいます。
それだけではありません。
首を通っている、心臓から脳に血液を送る血管も、首が前に傾くと頭の重みで潰されてしまいます。
脳と全身をつなぐ神経、気持ちを司る自律神経、そして脳への血流が連動して苦しい状態になってしまう、それがねこ背の状態なのです。
ここではねこ背がどんなココロの状態を生み出すのか、お知らせしましょう。
クタクタなのに眠れない! ツラい不眠症
疲れているのに眠れない......
自律神経、という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
特に原因は思い当たらないのに気分がすぐれない、だるい、めまいがするなどのさまざまな症状が現れる場合、自じ律神経失調症と診断されることがあります。
自律神経には心身をリラックス状態に導く副交感神経と、やる気を生み出す交感神経があり、それぞれのバランスが整うことで心身をよい状態に保ってくれるのです。
この自律神経のうち、交感神経の中枢は頸椎の前側に、まるでチューイングガムを伸ばしたように張り付いています。
ところがねこ背になると顎が前に突き出るため、首の後ろが縮まり、前側が無理に引き伸ばされてしまいます。
その結果、チューイングガム状の交感神経は過度な緊張状態を強いられてしまいます。
本来なら、夜になると副交感神経が優位になり、心と体がリラックスモードに入り、私たちを眠りに誘います。
ところがねこ背の人の中には自律神経のバランスが崩れ、夜になっても交感神経が緊張したままになってしまう人も。
そこで起こるのが、不眠です。
「どんなに疲れていても、眠りにつけず、日中になると眠気に襲われ......。ねこ背を治したら寝つきがよくなり、驚いています」(Y・Kさん/53歳・女性)
睡眠導入剤などを検討する前に、姿勢をチェックしてみるとよいかもしれません。
気持ちが沈んでツラい......。うつと背中の関係
うつの原因は心因性のものがほとんどですが、そればかりではありません。
「体の状態」と「ココロの状態」は密接に結びついています。
「バンザイをした状態では悲しいことや嫌なことを考えることはできない」「背中を丸めた状態では楽しいこと、うれしいことを考えることはできない」という実験をしましたね。
これはまさに「体とココロ」が結びついている証拠だといえます。
もうひとつ、注目したいのは、「脳脊髄液」です。
脳脊髄液は、頭蓋骨内で脳を、そして脊柱の中では脊髄をとり囲んで満たしている液体です。
脳に栄養を補給したり老廃物を除去するほか、脳や神経を衝撃から守るクッションの役割も果たしています。
背骨がまっすぐなら脳脊髄液はスムーズに流れているのですが、ねこ背になると、頸椎・胸椎が硬くなり、脳脊髄液の流れも滞ってしまいます。
すると、気分がふさぐ、やる気がでないなど、うつ特有の症状が生じてしまうことがあります。
脳脊髄液の流れが滞ると気分がふさぎがちに......
「軽いうつと診断されたとき、母に『背中を丸めちゃだめ!』と叱咤されました。それさえおっくうだったのですが、教えてもらった『ねこ背伸ばしの座り方』は簡単なのですぐ取り入れることができました。すると自然に背中が伸び、気持ちも晴れていきました」(R・Aさん/32歳・女性)
「ねこ背伸ばしの座り方」なら簡単なので、気力がわかないときにでもできますから、試してみましょう。
突然の不安や緊張......姿勢が原因のことも
なんの前触れもなく突然訪れる動悸や呼吸困難、発汗、めまい。
このままでは死んでしまう! という恐怖感に襲われる......。
こうした発作そのものは30分くらいでおさまるものの、「また発作が起きたらどうしよう」という不安や恐怖心がつきまといます。
その結果、ますます不安や恐怖心が強くなり、通常の生活が送れなくなってしまうのが、パニック障害です。
脳内には、恐怖や不安に関わる神経伝達物質「ノルアドレナリン」と、興奮を抑える神経伝達物質「セロトニン」があり、私たちの精神状態をコントロールしていると言われています。
パニック障害は2つの脳内神経伝達物質のバランスが崩れることによるとされています。
バランスが崩れる原因はよくわかっていませんが、パニック障害の方の体に触れると、頸椎から胸椎にかけた部分が硬くなっているという共通点があります。
ねこ背によってこの部分が硬くなることが、パニック障害をますますひどくさせていると経験的には感じています。
「満員電車で動悸が激しくなり、呼吸困難になった恐怖が忘れられません。背中をほぐしてもらいながらじっくり話を聞いてもらったことで、少しずつ怖さが薄れてきました。そういえば今までは背中を丸めてうつむいてばかりいて......。背中がすっきり伸びたことで、ココロも落ち着いたようです」(H・Sさん/28歳・女性)
専門医による治療・カウンセリングは必要ですが、自分でできることを取り入れてみるといいかもしれません。
こんなにある! ねこ背が招くメンタルトラブル
自信喪失
背中を丸め、肩が内側に巻き込んだ形になるねこ背は「意気消沈」を絵に描いたよう。堂々と胸を張った姿勢」の真逆。それがココロに影響を及ぼし、自信が持てない、成功のイメージが浮かばない、といった精神状態に陥らせる。
不安感
背中が丸まり、顎が突き出た姿勢になるねこ背のほか、立ったときにうつむきがちになるタイプのねこ背もある。「目立ちたくない」「失敗したくない」「とがめられたくない」などの気持ちが強く、いつも不安に駆られてしまう。
ひきこもり
人生を楽しみ、新しいことに挑戦するには生きる姿勢がポジティブであることが不可欠。これを手に入れるには、まず形から。背中を丸めた姿勢はココロに影響を及ぼし、「何をやってもダメ」「挑戦は無駄」というネガティブさを生み出してしまう。
全8章にわたって『ねこ背』になる理由、そのメカニズム、そして、改善方法などをわかりやすく解説