リモートワークが続き、ねこ背の人が増加中です。これは自律神経の不具合、血流障害、内臓の圧迫...体内からさまざまな不調を起こします。そういう不調に悩む人を数多く改善に導く整体師・片平悦子さんの著書「きれいな姿勢に生まれ変わる ねこ背伸ばし」(アスコム)から、ねこ背のメカニズム、改善メソッドをご紹介します。
【前回】ねこ背が気になったら立ち姿勢、座り姿勢、仕事姿勢をチェック/きれいな姿勢に生まれ変わる ねこ背伸ばし
姿勢で変わる!
やる気モードとリラックスモード
もう一度、おさらいしましょう。
立っているときにしろ、座っているときにしろ、正しい姿勢の条件は3つあります。
- 背骨がゆるいカーブを描いていること
- 頭が背骨の上にきちんと乗っていること
- 骨盤が正面を向いて立っていること
この3つが揃って、「見た目も美しく体に負担がない」よい姿勢が完成します。
よい姿勢=ラクな姿勢ですから、この姿勢をしているときが最もラクでリラックスできます。
しかし、人はラクチン・リラックスモードだけではありません。
仕事をするときや何かに挑戦するとき、「やるぞ!」というときはちょっとした緊張モードになります。
そんなとき、体の重心は少しだけ前に傾きます。
ちょっと本を置いて立ち上がり、試してみましょうか。
リラックスモード
かかとの中央に重心を置いた立ち方。体の中心線がまっすぐになる
やる気モード
土踏まずに重心を置いた立ち方。体が少しだけ前のめりになる
体に力を入れず、ラクな姿勢で立ちましょう。
まず、重心をかかとの中央に置いてみてください。
次に、ゆっくりと重心を土踏まずに移動させてみましょう。
いかがでしょうか。
かかとの中央に重心を置いたときは、まるで地球の中心に向かって吸い込まれていくような安定感と心地よさを感じませんでしたか?
そして、重心を少し土踏まずに移すと、足の指先に少しずつ力が加わり、闘争心に火がつくようなやる気モードになったのではないでしょうか。
空から頭を一本の糸で引っ張り上げられているようなイメージで立ち、かかとに体重が乗るようにすると、安定して長い時間同じ場所でじっと立ち続けることができます。
一方、たとえば今から全力疾走をしようというときや重大な会議に向かうときは、自然に土踏まずに重心が移動して、素早く初めの一歩が踏み出せる体勢になります。
かかと重心で静止して立っているときは、体に余分な力が入っておらず、脱力してリラックス状態。
対してこれから行動を開始しようという土踏まず重心で立っているときは、少し緊張している状態。
気持ちは前向きで、集中力が最高になります。
いずれも、「よい姿勢」がキープできているなら、どこに重心があっても体にツラさや苦しさはありません。
これは座っているときも、同じことがいえます。
同じ椅子に座っていても、座り方を変えるだけで「やる気モード」と「リラックスモード」に切り替えることができます。
思い出してください。
立っているときのよい姿勢は、体がラクな姿勢でしたね。
座っているときもそれは同じこと。
やる気モードにしろリラックスモードにしろ、どちらも「体がラク」なのが基本です。
「ねこ背伸ばしの座り方」がなぜラクなのか、もう少し詳しくご説明しましょう。
ベストポジションは、こう見つける
もし、大事な仕事に取り組んでいる間、姿勢のせいで体がキツいとか苦しいと感じたら、仕事どころではありませんよね。
むしろ......拷問のよう!
ところが、そうした状態を無視して、半ば強引に仕事に立ち向かっている人は多いのではないでしょうか。
内臓が圧迫されて呼吸が浅くなり、体が酸欠寸前なのに新しい企画を考えたり、腰の痛みを我慢しながら面倒な計算をしたり......。
とてもいい仕事ができそうにありません。
そもそも、椅子は集中して仕事をすることには向いていないものが多いような気がします。
どちらかというと、ゆったりと背もたれにもたれて寛ぐことに向いているものが多いように思います。
やわらかいクッションで、座面が背もたれに向かって斜めになっているようなリラックス用の椅子に座って仕事をしているのだとしたら、それは体にとって間違いなく拷問です。
でも、だからといって簡単に椅子を買い替えられるとは限りませんよね。
それに、「集中力がアップする体に優しい椅子! しかも自分の体に合わせたオーダーメイド!」なんて椅子でも、まったくダメだったという私の経験からしても、「集中できるかどうかは椅子次第」ではないことがわかるはずです。
先ほど、「よい姿勢にはやる気モードとリラックスモードがある」というお話をしましたね。
立っているときの重心がかかとにあれば「リラックスモード」、それを土踏まずに移動させると「やる気モード」に切り替えることができる、と。
このとき、だいたい頭の位置は10~15センチくらい移動しているはずです。
さて、座っているときも同様に、「やる気モード」と「リラックスモード」があります。
ということは、リラックスしているときの重心から頭を10~15センチ前に移動したほうが、やる気が出るということになるのです。
では、その方法をご説明しましょう。
ベストポジションの見つけ方
リラックスモードの座り方から上体を10 〜15 センチ前へ移動する。
椅子の座面と背もたれが接しているところに肛門がくるように、深く腰かけてください(上図1)。
膝の真下に土ふまずが来るように足を置き、背もたれにもたれず背筋を立てます。
よい姿勢で深く腰かけたときは、体のどこにも負担がかからず、苦しくありません。
背中はスッと伸びているのに体はリラックスしているはずです。
そして、気持ちはゆったりと穏やか、呼吸も自然と深くなりますね。
このままの状態で背もたれにもたれかかっても、肛門も尾骨も座面には触れません(上図2)。
骨盤が立ったまま、つまり坐骨だけで座っているので、よい姿勢はキープできています。
つまり、体はとてもラクで、腰痛や肩こりにはなりません。
これが、リラックスモードの座り方です。
では、リラックスモードの位置から頭を10~15センチ前に移動させます。
次に、目を閉じ、腕をおろし、腕の重さを感じながらゆっくりと背もたれから体を起こしてみましょう。
ゆっくりと、重心を移動させていると、ふっと腕が軽く感じる位置があります(上図3)。
ここが座ったときの「やる気モード」の位置。
ぜひご確認くださいね。
その場所から腕を机に置いて作業をすると、肩や首に負担がかからないベストポジションなのです。
この位置をキープし続けることができれば、肩も首も痛くならない、内臓にも負担がかからない、血液の循環もベスト、最高の集中力で仕事に取り組めます。
では、どうやってベストポジションをキープすればよいでしょう。
もうおわかりですね。
その姿勢のまま浅く腰かけ、肋骨を机にもたれさせればいいのです。
つまり、「ねこ背伸ばしの座り方」です。
肋骨で上体を支えてしまえば、ベストポジションのまま体が揺らぐことはありません。
最高の集中力がずっと続くのです。
疲れてきたら、その位置のまま腰を座面と背もたれの角までスライド。
骨盤の角度をキープしたまま背もたれにもたれれば、ベストなリラックス姿勢(上図2)が完成!
いかがですか?
とても簡単ですよね。
だから、「ねこ背伸ばしの座り方」は続くのです。
腰の痛みやひどい肩こり、首や背中の痛み......。
現代人は必ずといっていいほど、体に不調を抱えています。
特に仕事をしている人ほど、不調率は高くなる一方。
体の不調だけではなく、いつもイライラする、気分が落ち込む、ちょっとしたことでドキドキしたり落ち込んだりするなど、精神面でも問題を抱えている人はたくさんいらっしゃいます。
しかもやっかいなのは、体の不調も心の不調も「病院に行くほどではない」というところ。
たとえば「ピクリとでも動くと激痛が」というほど、首や腰が痛いわけではありません。
「誰にも会わずどこかに消えてしまいたい」というほど、気持ちが落ち込んでいるわけではありませんよね。
よくも悪くも「そこまでひどくはない」という、まさに心も体も低空飛行の状態で止まっているというケースは多いのではないでしょうか。
そのため、ツラいのを我慢したり、休日返上で働き続けるなど、無理を重ねてしまうのです。
現代は、このようにして心も体も「ツラい!」と言っているのに「そこまでひどくない」といって無理をさせたり、「まだ大丈夫」と自分をだましたりしながら忙しい日々を送っている人がとても多いように見えます。
こうした人たちは「ひどくない」「大丈夫」と思っているため、自分でなんとかしようと思いがちです。
日々忙しく過ごしているから、病院できちんとチェックする時間もない、マッサージに行く時間もないと自分に言い聞かせているのではないでしょうか。
そして、「忙しい時間の合間にできる」という触れ込みのセルフマッサージを次々と試して行くのです。
こうして腰痛や肩こりの原因となっている、ねこ背を治したくて、さまざまなグッズや健康法、サプリメントを渡り歩いてしまう「ねこ背難民」になってしまうのです。
でも、体に何かしらの不調がある人なら誰でも、「ねこ背難民」の傾向を持っていると言えるのではないでしょうか。
早くよくなりたいから、少しでもいいと思う方法を試すというのは、ごく当たり前の気持ちだからです。
ただ、それがうまく当てはまらないことが問題なのです。
もう、そうした「ねこ背矯正」や「姿勢矯正」、「腰痛防止」「肩こりを防ぐ」アイテムや、効果が今ひとつ表れないエクササイズやサプリメント、健康法とはサヨナラしても大丈夫です!
「ねこ背伸ばしの座り方」なら、何も使わず、座るだけでねこ背が治るのですから。
ぜひ、すぐに始めていただきたいと思います。
全8章にわたって『ねこ背』になる理由、そのメカニズム、そして、改善方法などをわかりやすく解説