世界中に蔓延するコロナウイルスにより、今までの生活が一変した2020年。実は、コロナ感染リスクを考えて、「健康診断」や「がん検診」をも自粛する人が増えているんだそうです。公益財団法人がん研究会 有明病院の病院長である佐野武先生は「コロナ以外の健康リスクにも目を向け、がんの早期発見・早期治療の可能性を閉ざさないでほしい」と言います。
「コロナ感染リスクを避けたい」が故に...
全国の20~79歳の男女15,000人を対象に、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカルカンパニーが実施した「健康診断・人間ドック、がん検診に関する意識調査」を見ると、「新型コロナウイルスへの感染リスク」から、「自分の健康チェック」を回避する傾向が表れています。
調査によると、今年度の「健康診断」の受診を控えたいと答えた人は全体の53.6%、「がん検診」の受診を控えたいと答えた人は56.9%でした。
さらに、来年度であっても、受診を控えたいと考えている人が「健康診断」30.7%、「がん検診」33.9%にものぼり、今年度・来年度いずれかで健康診断を「控えたい」と思った人の実に63.2%が、「控えたい理由」として「新型コロナウイルスの感染リスクがあるから」を選択しています。
実際の受診率は?
今年度の実際の受診状況は、2020年10月時点で「健康診断」を受診済みの人が約4割(38.6%)、今年度中に受診予定の人を含めると約6割(57.7%)でした。
一方の「がん検診」については、いずれのがん種の検診をみても、受診済みは2割程度。今年度受診予定を含めても3割程度にとどまっています。
さらに、「受診予定はない」「わからない」の回答者割合も、「健康診断」の約3割に対し「がん検診」は6割前後となっています。
「健康診断」も「がん検診」も、「国民健康保険加入者」が低調...?
受診状況は、加入している健康保険種別にも差がみられました。
後期高齢者医療制度の加入者を除くと、会社員や公務員とその家族は、「組合けんぽ」「協会けんぽ」「共済組合」に加入するケースが多く、自営業や会社を退職された方とその家族の多くが「国民健康保険」に加入しています。
※2020 年度の受診者(2021年3月までの受診予定者を含む)の割合を保険種別でみたもの
「健康診断」は、「国民健康保険」加入者が受診している割合が低く、2人に1人(50.4%)しか受診していません。
「がん検診」の受診状況でも同じような傾向がみられ、いずれのがん種の検診も約2~3割にとどまっています。
一方、企業が単独、あるいは共同設立し保険者となる「組合けんぽ」加入者は、全体平均に対して高い受診率となっています。
「がん」を早期発見するために
家族構成や年齢、持病などさまざまなリスクから、健診施設やクリニックでの「検診」を控えたいと考えている人が多いと思います。しかし、公益財団法人がん研究会 有明病院の病院長である佐野武先生は「本来、がんは早期発見が重要で、がん検診は毎年受けたほうがよい」と言います。
「がん検診の意義は『症状のない人たちに早期のがんを見つけて治すこと』です。発見の確率はそれほど高くはありませんが、それでも毎年確実に多数の早期がんが見つかり、比較的軽い治療(例えば内視鏡的切除など)で治癒しています。非常にゆっくり成長するがんもありますが、多くは着実に進行しますので、がん検診が半年、あるいは1年遅れることで、より進んだ状態で見つかることになり、より大きな手術や強い抗がん剤が必要になります」
佐野先生は、そう警鐘を鳴らします。
「がんが進行して症状が出ていても、コロナ感染を恐れて自宅で我慢し続け、非常に具合が悪くなって初めて病院を受診する人がいます。治癒は望めなくとも延命をめざす治療があるのですが、全身の状態が悪化しているとそれさえ行えません。このように、コロナのためにすべてが後回しとなり、がんが進むことを、私たちは恐れています」
ウィズコロナでの「健康チェック」の重要性
テレワークや時間差出勤など、私たちの生活環境はウィズコロナとともに変化してきました。
コロナ感染を恐れて、大きな病気の発見が遅れては元も子もありません。
コロナ対策を万全にした上で、来年も家族が健康で過ごせるよう、「健康診断」「がん検診」の受診を検討してみてはいかがでしょうか。
文/斎藤諒子