夜中に突然ふくらはぎがつって痛みで目覚めることはありませんか? 一般的にこむら返りと呼ばれていますが、正式には「腓腹筋けいれん」といいます。今回は、東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 教授 川嶋 朗先生に「こむら返り」の原因や起こしやすい人ついて教えていただきました。
はるか昔から人々を悩ませてきた痛み
年を重ねるにつれ、寝ているときに足がつり、その痛みで目覚めるようなことが増えます。
足の激痛は、足の指を反らし、ふくらはぎをもむなどしてようやく治まるため、眠気が吹き飛び寝不足につながる人もいます。
そんな状態を「こむら返り」と呼びます。
「こむら」はふくらはぎのことで、つった状態を「返り」と称すのです。
平安時代にふくらはぎを「こむら」と呼んだそうで、こむら返りは昔から人々を悩ませてきた痛みです。
「こむら返りは、正式には『腓腹筋(ひふくきん)けいれん』といいます。筋肉のバランスの乱れが原因でけいれんにつながるのです」と川嶋朗先生。
ふくらはぎは、足先まで酸素や栄養を運んできた血液を心臓へ送り返すポンプの役割を持ちます。
心臓は拡張し収縮することで血液を送り出しますが、ふくらはぎの筋肉も伸び・縮みで血液を送り出しているのです。
伸び・縮みのセンサーが誤作動するのが「こむら返り」です。
「センサーの誤作動は、筋肉疲労、筋肉量不足、冷え、血行不良、脱水、ミネラルバランスの崩れなどで起こります。加齢とともに起こりやすいのは、筋肉量不足と冷えが大きな要因です」
●主な原因は
冷え
体が冷えると血の巡りが悪くなって筋肉も緊張し、筋肉のセンサーが誤作動を起こしやすくなります。
血行不良
血の巡りが悪いと代謝が滞り熱が生じにくく体が冷えます。冷えと血行不良は深い関係にあります。
脱水
寝汗をかいて脱水状態になるとミネラルバランスが崩れます。寝る前に水分の補給を。
筋肉疲労とセンサーの誤作動
スポーツジムなどで汗を流した後に、こむら返りを起こすことがあります。筋肉を激しく動かす状態は、筋肉センサーを過敏に働かせるため、誤作動につながりやすいのです。ランニングをした後に急に止まったりすると、誤作動を起こしやすいのでご用心。スポーツ後のストレッチで筋肉をほぐしましょう。
●「足がつる」のはココ!
ふくらはぎの筋肉はこうなっています
【大腿骨】
太ももの骨。人体の最大の骨といわれ、体を支えています。太ももの筋肉も体の中で最も大きく、鍛えることで代謝がアップ。
【腓腹筋内側頭(ひふくきんないそくとう)】
外側の腓腹筋外側頭とセットでふくらはぎを構成。ヒラメ筋の腱とつながり、センサーの誤作動が起こるとこむら返りになります。
【アキレス腱】
腓腹筋やヒラメ筋とつながる腱で、腱紡錘というセンサーがあります。筋肉をゆるめる指令を出し、誤作動するとこむら返りに。
【腓腹筋外側頭(ひふくきんがいそくとう)】
ふくらはぎの外側の筋肉で、内側の腓腹筋内側頭とセットで構成。第2の心臓といわれ、こむら返りが起こるのはこの筋肉です。
【ヒラメ筋】
ふくらはぎを構成する筋肉の一つで、腱で腓腹筋と合流しています。つま先が曲がるのに関係し、センサーの誤作動に関与しています。
【踵骨(しょうこつ)】
かかとの骨のことで、アキレス腱によって腓腹筋やヒラメ筋につながっています。こむら返りとは直接関係ありません。
夜中に突然の激痛!でも慌てないで対応を
運動不足で筋肉量が少ないと、筋肉が生み出すエネルギー量が減って基礎代謝が落ちます。
基礎代謝は、安静にしていても生み出されるエネルギーのことで、基礎代謝が低いと体温も低くなるのです。
体が冷えると血流も悪くなるため筋肉が緊張しやすくなり、伸び・縮みのセンサーも誤作動を起こしやすくなり、こむら返りにつながります。
では、なぜこむら返りは夜中に起こるのでしょうか。
「筋肉量不足や冷えの原因に加え、布団の重みでつま先が下がることも関係しています。仰向けに寝てつま先が下がった姿勢は、こむら返りを起こしやすいのです」と川嶋先生。
ふくらはぎの筋肉が縮むときには腱が伸びます。
筋肉に縮める指令を出しているのは、「筋紡錘(きんぼうすい)」という筋肉の中のセンサーです。
一方、腱が縮んだときには筋肉が伸びます。筋肉にゆるめる指令を出しているのが、筋肉と腱の間にあるセンサーの「腱紡錘(けんぼうすい)」です。
つま先が下がると、ふくらはぎの筋肉は縮んで腱が伸びた状態になります。
このとき、本来は筋肉を伸ばす腱紡錘のセンサーが働かなければなりませんが、誤作動によって筋肉がさらに縮み、こむら返りになるのです。
そのため、こむら返りのときに足首をつかんで足の指を反らすと、ふくらはぎの筋肉が伸びて痛みを和らげることができます。
「一気に筋肉を伸ばすと肉離れになることもあるので、ゆっくり伸ばすことを意識してください。家族に伸ばしてもらうときにも、ゆっくり行うように頼みましょう」と川嶋先生はアドバイスします。
こむら返りにつながる筋肉のけいれんは、背中の大きな筋肉や脇腹でも起こります。
また、筋肉量の減少や冷えなどに加え、糖尿病や肝機能障害、腎機能障害でも、筋肉のセンサーの誤作動が生じやすくなるそうです。
軽視は禁物!重大な疾患の予兆かも
「糖尿病は末梢神経への血液循環が悪くなり、こむら返りが起こりやすくなります。腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)の神経への刺激でも、誤作動は起こります。さらに、動脈硬化などで血流が悪くても起こるのです」と川嶋先生は注意を促します。
加齢とともに糖尿病などの生活習慣病や、腰部脊柱管狭窄症のような腰の病気も生じやすくなります。
それらの病気がこむら返りの引き金になることもあるので注意しましょう。
中には、脳卒中や心筋梗塞のサインとして、こむら返りが起こることもあります。
「いつもと違う痛みや、毎日のように繰り返し起こるときには、内科や整形外科を受診してください」と川嶋先生はアドバイスします。
病気以外にも、暖かい陽気に誘われて薄着で体を冷やし、冷たい飲み物ばかりを飲むようなことは、血液循環を悪くしてこむら返りに拍車をかけます。
暴飲暴食も、消化器に血液が集中して足などへの血流が不足するのでよくありません。
●持病があって足がつりやすい人は要注意です!
・高血糖の人は...
→糖尿病、肝機能障害の疑いがあります
高血糖の状態が続くと筋肉や内臓などがエネルギー不足に陥り、同時に、神経もダメージを受けます。筋肉のセンサーの誤作動が起こりやすいのです。肝硬変の初期段階でも首や肩などがつります。
・腰痛の人は...
→腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症の疑いがあります
椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症は、神経が圧迫されて痛みやしびれを招きます。その神経の刺激が筋肉の誤作動につながり、こむら返りが起こりやすくなると考えられています。
・そのほかにも...
生活習慣病で血管が硬くなる動脈硬化が進むと、血流が悪くなり、冷えにつながってこむら返りを起こしやすくなります。また、脳梗塞の前兆としてこむら返りになることも。
【セルフチェック】あなたは「こむら返り」を起こしやすい人かも!?
□ 平熱は35度台だ
□ 水は冷えている方が好きだ
□ 冷たい飲み物をよく飲む
□ 浴槽につかるよりもシャワーで済ませることが多い
□ 食事はおなかいっぱい食べるようにしている
□ 着圧ソックスを愛用している
□ 補正下着は必需品だ
□ 就寝前にスマートフォンを見ていることが多い
※当てはまるものが多い人ほど、こむら返りを起こす可能性が高い生活習慣をしているといえます
【まとめ読み】アラフィフ世代が気になる病気はここからチェック!
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史