雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回は、連載特別編「健康長寿を目指すなら血圧を下げよう」の第1回。高血圧の危険性について、教えていただきました。
高血圧はサイレントキラー
脳卒中多発県で46年間、内科医を続けてきて、多くの高血圧の患者さんを診てきました。
高血圧の患者さんに共通しているのは、みな元気そうだということです。
血圧が高いだけでは症状はほとんどないからです。
そのため、医師のぼくが「生活習慣を改善して、血圧を下げていきましょう」などと言っても、ピンとこないことが多かったのです。
「えっ?どこも痛いところがないのに、そんなことを言われても...」そんなふうに思う気持ちはわからなくもありません。
「血圧が高いのはわかったけれど、自分はまだ元気だし、きっと大丈夫」と思う人もいます。
楽観主義はいいことですが、この場合は単なる思い込みにすぎません。
なかには、「もういい年齢だから、いつ死んでもいいんですよ。好きなものを食べて、飲んでぽっくり逝きたい」と言う人もいます。
でも、「好きなことをして死にたい」というのは簡単ではないのです。
脳卒中になれば、後遺症でまひが残ることも多く、不自由な生活を強いられます。
寝たきりになる人もいます。
そうした脳卒中を起こす動脈硬化や、脳梗塞、心筋梗塞などのリスクを高めるのが高血圧です。
本人が不快に思う自覚症状がほとんどないため、静かなる殺人者、サイレントキラーといわれています。
高血圧の患者は現在、日本に4300万人。
高齢者の2人に1人は高血圧といわれています。
治療目標が厳しくなった理由
高血圧の診断基準は、診察室での血圧測定で上の血圧(収縮期血圧)が140㎜Hg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が90㎜Hg以上の場合です。
日本高血圧学会は5年ぶりの改訂で、高血圧の人は上の血圧を130未満に、下の血圧を80未満にという治療目標を設定しました。
さらに、75歳未満の成人で、正常高値血圧(120~129/80未満)以上のすべての人は、生活習慣の改善が必要としたのです。
血圧が高めという程度で、高血圧ではなくても、生活習慣の改善は必要になったのです。
こうした考え方の根拠になったのは、アメリカのオハイオ州ケース・ウエスタン・リザーブ大学が中心になって実施された調査です。
50~75歳以下の高血圧患者約1万人を二つのグループに分けて、投薬と生活指導で高血圧を治療しました。
一方は、120未満を目指す厳格降圧治療グループ、もう一つは140未満を目指す標準降圧治療グループです。
その二つを比べると、心血管病による死亡リスク、心不全リスク、全死亡リスクにおいて、厳格グループのほうが低いことがわかりました。
つまり、降圧目標を120未満にしたほうが心筋梗塞や心不全になる危険性が減るというのです。
この結果を受けて、日本では120を目指しながら、せめて130未満に下げることを目標にしようということになったのです。
最近、カマタが行っているのは、内転筋を鍛えるワイドスクワット。血圧も下げる。女性にありがたいのは、美脚になる。認知機能もアップし、認知症予防になる。
フェイクにだまされてはいけない
日本高血圧学会のこうした動きの一方で、一部の週刊誌やネット上では相変わらずフェイクニュースが横行しています。
「血圧が高い人のほうが元気だ」「血圧の薬は飲まないほうがいい」といった内容です。
たしかに血圧が高くても長生きした人もいますが、確率的に言えば高血圧は動脈硬化を起こし、脳梗塞や脳血管性認知症、心筋梗塞、解離性大動脈瘤を起こしやすくするのは間違いありません。
脳と心臓の病気で、年間31万人が亡くなっているという事実を忘れないようにしましょう。
高血圧が原因で慢性腎不全になり、透析が必要になっている人もいます。
高血圧は正常血圧の人より、認知症のリスクが1・6倍高まるという論文も発表されています。