いつの時代も怖い病気の代表に挙げられる「がん」。たとえ自分や家族が患ってしまったとしても、心の準備と備えがあれば、少しは気が楽になるかもしれません。そこで、1000件を超えるがん手術に携わった専門医・佐藤典宏さんの著書『手術件数1000超 専門医が教える がんが治る人 治らない人』(あさ出版)から、がんに対抗するために知っておくべき「5つの力」について、連載形式でお届けします。
ガンが治る人 ガンを受け入れ早く立ち直る/ガンが治らない人 ガンを受け入れられず、引きこもる
まず、「ガンが治る人」の共通点は、ガンになった現実を「受け入れる力」をもっていることです。
ひと昔前は、ガンを告知しないこともよくありました。
「ガン」ではなく、「潰瘍」とウソの病名を告げたり、「放っておくと〝ガン〟になるから、今のうちに切除しましょう」と伝えたり、あいまいな説明をすることもありました。
特に高齢の進行ガンの患者さんには、医者は家族にだけガンであることを伝え、本人には告知をひかえる傾向にありました。
しかし、十分な説明をし、患者が同意してから医療行為を行うことが当たり前になった今では、「本人へのガン告知」は治療を始めるうえでの必須条件になりました。
ガンを告知されたとき、多くの患者さんは少なからずショックを受けます。
たとえ、以前からガンと思われる症状を自覚していたり、検査結果を待っている間にある程度覚悟をしていたりしても、告知される衝撃は相当なものです。
頭の中が真っ白になり、自分がガンであることを信じようとしなかったり、否定しようとしたりする心の動きがおこります。
しばらくは、気持ちが落ち込み、何も考えられない状態が続くこともあります。
しかし、まず、知っておいてほしいのは、「落ち込むのはあたりまえの反応で、決して患者が弱いからではない」ということです。
しばらくすると、沈んだ気持ちが上向きになり、「ガンを患った現実」を受け入れることができるようになります。
個人差はありますが、落ち込んだ状態から現実を受け入れることができるようになるまでには、1~2週間かかるといわれています。
なかには、精神的な落ち込みがひどく、食事がほとんどとれなくなったり、仕事がまったく手につかなくなったり、日常生活に支障をきたす人もいます。
私の患者さんにも、ガン告知の後で引きこもってしまい、入院日までまったく家を出なかった、という人もいました。
このような状態を「適応障害」と呼び、ガン患者さんのおよそ3割は適応障害になり、そのうちの何割かは「うつ病」になるといわれています。
このような患者さんは、ガンによる死亡率が高くなる、という報告もあります。
告知後の落ち込みが強く、引きこもってしまうと、ガンの治療にさまざまな悪影響をおよぼします。
意識が「ガン」のことばかりに集中すると、精神的な苦痛、ストレスで免疫力が低下します。
体を動かすことが少なくなるので、当然、筋肉も減ります。
さらに、食欲もなくなり、栄養状態も悪化するおそれがあります。
ガン治療前に筋肉(骨格筋)の量や筋力が低下している患者さんは、手術や抗ガン剤治療後の合併症、副作用、さらには死亡率が高まることがわかっています。
ですから、引きこもったまま、治療に突入することだけは、絶対にさけないといけません。
まずは、ガンになったら家族や親しい友人などに、不安な気持ちを話してみましょう。
人に相談することで頭の中が整理され、心が落ち着きます。
気晴らしに、自然のなかに出かける、散歩する、趣味のスポーツをする、あるいは好きな映画やテレビを見るなど、リラックスし、気持ちがよくなることをしてみましょう。
それでも、1日中落ち込んだ状態になり、告知から2週間以上続く場合、専門医(心療内科、精神科、あるいは精神腫瘍科の医師)の受診をすすめます。
家族の1人がガンと告知され、引きこもっていると感じるときも同じです。
このようなときは、主治医に相談してみましょう。
対応策を考え、必要な場合は専門医受診の手配をすすめてくれるでしょう。
主治医に話しにくい、話しても取り合ってもらえないなら、看護師、あるいは、「がん相談支援センター(全国のがん診療連携拠点病院などに設置されているガンに関する相談窓口)」のスタッフに相談する、お近くの心療内科や精神科のクリニック(メンタルクリニック)を直接受診するのもいいでしょう。
日本では、ガン患者さんの心のケアが軽視されてきました。
心療内科や精神科は敷居が高いと感じたり、受診を嫌がったりする人も多いのです。
しかし、落ち込みが続く状態では生活に支障がでますし、治療もうまくいかないでしょう。
ガンを克服するためには、告知後の落ち込みから1日でも早く立ち直ることが大切です。
そのためには、遠慮せずに専門医に頼り、積極的に心のケアを受けるべきなのです。
心構えや情報収集のやり方などが全5章で解説。治療法ではなく、がんを治すために自分でやれることがまとめられています