あなたは大丈夫?生理前だけ急激に落ち込む人は月経前緊張症かも...

多くの現代人を悩ませる「うつ病」。世代や性別を問わず、また本人の周囲にまで問題が広がっていく、つらい心の病です。うつ治療といえば精神科に通うというイメージがありますが、治療手段はそれだけではありません。精神疾患治療に長年携わってきた心療内科医による、「漢方によって心身のバランスを調えて、うつを治す方法」について、連載形式でお届けします。

※この記事は『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』(森下克也/方丈社)からの抜粋です。

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生理が近づくとひどく落ち込んでしまうDさん(32歳・女性)

Dさんは専業主婦です。3年前に結婚されるまでは商社に勤務していました。若いころから生理痛がひどく、産婦人科にも長年お世話になっています。一時期はホルモン治療も受けていました。学生時代には、授業を休まなければならないこともたびたびあったといいます。性格的には、やや神経質ですが人づきあいもよく、仕事もよくこなしていました。

Dさんは周囲に祝福され、結婚とともに退職しました。退職したのは、ご主人の「家にいてほしい」という意向があったからです。ただ、Dさんは仕事を続けたかったので、心境は複雑でした。

でも、早く子どもがほしかったDさんはそれを受け入れ、結婚後は一生懸命家事をこなし、よき妻になろうと努力しました。そして、一刻も早く子どもを産んで、よき母親になりたいと思いました。

ところが、なかなか子どもを授かりません。病院で検査も受けましたが、Dさんにもご主人にも不妊になるような原因は見あたりません。

そんなある日、Dさんは急に気分が落ち込んで、家事ができなくなってしまいました。朝がだるく、なかなか布団から出られません。なんとか這い出すように起きても、ご主人のために朝食をつくるのが精いっぱいで、送り出したあとはソファに横になったままです。眠たくてしかたがありません。

考えることといえば、「仕事を辞めなければよかった」「子どもができない自分に価値なんてない」「いっそのこと死んでしまいたい」「結婚なんてしなければよかった」など、ネガティブなことばかりです。歩けばふらふらするし、手や足はむくんでいます。

そんな状態が4、5日続き、さすがにご主人も心配して病院に行くことを勧めました。ところが、病院に行こうかという前日に生理が始まると、嘘のように気分がよくなりました。家事もできるようになり、「どうしてあんなことを考えていたんだろう」と、我ながら不思議に思うばかりです。

気分の落ち込みは一時的なことだろうと、その後はさして気にもとめずに毎日を過ごしていました。ところが、一カ月後に再び、生理の前に同じことが起こりました。そして、生理が始まれば、また改善します。そんなことの繰り返しで、Dさんは、かかりつけの産婦人科の先生に相談しました。診断は、月経前緊張症でした。治療として抗うつ薬を勧められましたが、子どもがほしかったDさんはそれを拒否し、漢方治療を求めて当院へ来られました。

生理にともなう不調というのは、気分の変調にかぎらず、痛みや不順、はては更年期障害など、ごく一般的に見受けられます。程度も人によってさまざまで、放置していてもなんら支障のないものから、Dさんのように薬による治療を受けないと日常生活が送れないものまで多岐にわたります。

では、どうして生理のときに、そのようなことが起きるのでしょうか。Dさんに起きていることは何でしょうか。

月経前緊張症といううつ

Dさんは、西洋医学的には、産婦人科の先生から診断されたように、月経前緊張症です。月経前緊張症とは、生理前の時期にプロゲステロンという女性ホルモンの一つが活発に活動することにより起きる心と身体の変化のことです。生理が始まると、すみやかに改善するという特徴を持っています。月経周期で見ますと、排卵期に症状が始まり、月経2日目までにほとんど消失しています。

月経そのものは生理的な現象であり、病気ではありません。なので、月経前緊張症も一概に病気ととらえることには異論もありますが、日常生活に支障の出てくるほどの症状であれば、やはり病気として治療すべきです。

その症状は、じつに多彩です。細かいものも含めれば200以上あるといわれています。症状の出方も人によってさまざまです。Dさんの場合は、とくに抑うつ症状が強いパターンであるといえます。

抑うつ型の月経前緊張症では、プロゲステロンが大脳に作用して、脳内のセロトニン濃度が低くなっているといわれています。ここにもモノアミン仮説が登場します。現代の西洋医学では、うつのあるところ、おしなべてモノアミン仮説ありです。

抑うつ型の月経前緊張症もモノアミン仮説で説明されますが、背景に女性ホルモンの作用がありますので、通常のうつ病とは若干特徴が異なります。たとえば、抑うつ型の月経前緊張症では、プロゲステロンの作用によりむくみが強く出て、不眠よりも過眠傾向となり、食欲も増えて体重は増加に傾きます。

この月経前緊張症の治療は、とくに抑うつの強いパターンの場合、うつ病と同様にモノアミン仮説に基づいて抗うつ薬が処方されます。これに、ビタミンBやEの補充、あるいは、経口避妊薬(ピル)を用いて生理をとめるといった方法が併用されます。

しかし、こうした薬には副作用がつきもので、たとえば経口避妊薬には、体重増加、むくみ、頭痛、不安、焦しよう燥そう、性欲減退、吐き気、発がんの可能性などの副作用があります。となると、やはり漢方薬で治療を、ということになります。実際、生理にともなう心身の異常を訴えて来院される方は着実に増えています。

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森下克也(もりした・かつや)

1952年、高知県生まれ。医学博士、もりしたククリニック院長。診療内科医として、日々全国から訪れる、うつや睡眠障害、不定愁訴の患者に対し、きめ細やかな治療で応じている。著書に『「月曜日の朝がつらい」と思ったら読む本』(中経出版)、『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』(角川SSC新書)、『決定版「軽症うつ」を治す』(角川SSC新書)、『薬なし、自分で治すパニック障害』(角川SSC新書)、『うちの子が「親、起きられない」にはワケがある」(メディカルトリビューン)、『不調が消えるたったひとつの水飲み習慣』(宝島社)などがある。

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『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』

(森下克也/方丈社)

30年以上にわたって漢方治療に携わってきた医師が、うつ病をいやしてくれる「漢方養生法」をまとめた話題の一冊。漢方治療や東洋医学の基本から、症状別事例、漢方の選び方、養生法までを分かりやすく解説しています。薬局・ネット通販で購入できる「漢方市販薬リスト」も付いています。

※この記事は書籍『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』からの抜粋です。

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