多くの現代人を悩ませる「うつ病」。世代や性別を問わず、また本人の周囲にまで問題が広がっていく、つらい心の病です。うつ治療といえば精神科に通うというイメージがありますが、治療手段はそれだけではありません。精神疾患治療に長年携わってきた心療内科医による、「漢方によって心身のバランスを調えて、うつを治す方法」について、連載形式でお届けします。
※この記事は、『うつ消し漢方-自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』(森下克也/方丈社)からの抜粋です。
漢方の診察法
西洋医学も東洋医学も、診察の第一歩は問診です。西洋医学の場合、まず問診を行い、身体のどの場所に問題があるかを推測し、ある程度、臓器が特定できたら、そこを徹底的に細かく検査していきます。人間の目から検査機器の目へと、視点はどんどん細かくなっていくのです。問診は、西洋医学のなかではいわばプロローグにすぎません。
東洋医学でも、第一歩は問診です。でも、それはプロローグではなく、正確な証(薬が効くための条件)を打ち立てるためのいわばキモです。キモは問診だけではありません。東洋医学には検査機器などありませんから、あくまで五感を駆使して証の把握にあたるのです。
問診以外の診察法は、望診、聞診、切診で、これら四つの診察法を合わせて「四診(ししん)」といいます。肌の色つや、顔の表情、病変部位の形などを見るのが望診、声音(こわね)や病変部の音を聞き、匂いを嗅ぐのが聞診、脈をとったり、お腹を圧(お)したりして身体に触れるのが切診です。このうち、望診に含まれる舌診、切診に含まれる脈診と腹診がとくに重要で、証を立てる情報をたくさん与えてくれます。
舌診は舌の状態を診ることで、虚実、寒熱、六病位、血虚、瘀血(おけつ)、水滞、五臓六腑のどこが障害されているかなどを知ることができます。たとえば、五臓の脾が障害されると舌に白い苔こけのようなもの[白苔(はくたい)]がついたり、水毒になると舌がむくんで歯の跡がついたりします。また、陽明病期には乾燥した黄色い苔がついたり、陰病期にはやせて青白い舌になったりします。
脈診は、日本漢方よりも中医学でより高度に体系化されています。人差し指、中指、薬指の先を用いて左右同時に脈をとり、人差し指で触れる脈を寸脈、中指で触れる脈を関脈、薬指で触れる脈を尺脈といい、それぞれ心・肺、肝・脾、腎の状態がわかります。脈の性状でも、太陽病期では浮いた感じに、少陽痛期ではピンと弦を張ったように、陽明病期ではやや沈んだ感じになります。
腹診は、とくに日本漢方において重要視されてきました。お腹に現れるさまざまな特徴は、直接、処方名に結びつく情報を与えてくれます。たとえば、臍(へそ)の下が軟弱無力(小腹不仁)で胃腸障害のない老人であれば八味地黄丸(はちみじおうがん)の適応であるし、左の下腹部に圧痛や抵抗が触れる(少腹急結)便秘がちの人は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)です。みぞおちに圧痛や抵抗のある人は人参(にんじん)や枳実(きじつ)を含んだ処方の適用となります。
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