「人生の最期のときまで住み慣れた自宅で過ごしたい」と願う人は多いですが、それをかなえるためには「在宅医療」や「在宅介護」の連携や、自分が終末期にどのような治療を受けたいかという「意思表示」が重要です。長年「在宅医療」に携わってきた医療法人アスムス理事長の太田秀樹先生に、自宅で最期を迎えるための3つの疑問について教えてもらいました。
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Q 在宅医療をするとき、良い医師の探し方は?
A 訪問看護ステーションで紹介してもらいましょう。
より良い在宅医療のためには、地域情報に詳しく、看護や介護など、他の職種ともつながりが深い医師に来てもらうのが望ましいです。そのような医師の情報を知っているのは訪問看護ステーション(※)。多くの医師と連携しているので、よい医師を教えてもらうとよいでしょう。
※訪問看護サービスを行う民間の事業所。医療保険や介護保険が利用でき、市役所や地域包括支援センターに聞けば、近隣の訪問看護ステーションを教えてもらえます。
Q 自宅で亡くなると検視が入るのですか?
A 健康な人の突然死以外、検視は行いません。
在宅医療を継続的に受けていた人が、その病気が原因で亡くなったと判定できる場合は、死亡後に医師が診察して死亡診断書が交付されます。「自宅で亡くなると警察の検視が必ず入る」と誤解している人がいるようですが、検視が入るのは健康な人が急に亡くなったときだけです。
Q がんの痛みがある人を在宅で看取れますか?
A 医療用麻薬を使用して 在宅で対応できます。
がんの人の在宅医療では、痛みを緩和する目的で、医師の処方箋によりモルヒネなどの医療用麻薬を使用できます。医療用麻薬には内服薬や注射、貼付薬などの形態があり、症状に合わせて選択。痛みが出る前に定期的に次の薬を投与しながら、住み慣れた自宅で過ごせます。
体験談「在宅医療」ではこんなみとりが行われています
【体験談1】
寝たきりで病院から自宅に戻ったら回復したAさん(70歳代女性)
Aさんは認知症で病院に入院し、寝たきりの状態でした。担当医から「死期が近い」と言われたため、家族はAさんを退院させて在宅医療を開始。訪問診療の医師がAさんの休薬をすると、脱水症状が改善して食事がとれるまでに回復しました。訪問リハビリテーションでひざを伸ばす訓練をして、立つことが可能に。表情も豊かになったAさんは、心不全で亡くなるまでの2年間自宅で過ごせました。
【体験談2】
がんが見つかっても治療せず自宅で緩和ケアを受けたBさん(80歳代男性)
自宅の敷地内で自営業を営むBさんは、激しい咳のために受診。検査の結果、肺がんが疑われました。しかし「私はもう80歳を越えたので治療は受けない」と決めていたBさんは、訪問診療で緩和ケアを受けながら、しばらくは仕事を続けました。病状が進むと、鼻から管を当てて家庭用の酸素濃縮器で酸素を補給し、医療用麻酔で痛みを緩和。妻はBさんの意思を尊重し最期は自宅でみとりました。
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取材・文/松澤ゆかり イラスト/伊藤絵里子