「難聴で相手の話が聞き取りにくい」「めまいがつらくて気分までふさぎこんでしまう」など、難聴やめまいに悩む人はどの年齢にもいて、悪化すると生活に支障が出ることがあります。「急に耳が聞こえなくなった」という場合は、すぐに受診したほうがいいことも。難聴やめまいなどの症状や治療法、受診の目安、日ごろの注意点などについて、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教授の肥塚泉先生に聞きました。
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●感音難聴の主な原因は「耳の疲れ」「耳の血流障害」「ストレス」
難聴には発生する部位によって「伝音難聴」と「感音難聴」そして「混合性難聴」があります。「伝音難聴」の原因は基本的に、外耳から中耳までの範囲にあります。病気のために鼓膜や耳小骨などに障害が生じて聞こえが悪くなっているので、その障害をきたした病気を治療しそれぞれの働きを回復させれば、聞こえが改善することが多いです。一方、内耳から脳に至るまでの経路の障害によって起こる「感音難聴」の主な原因には「耳の疲れ」「耳の血流障害」「ストレス」などがあります。感音難聴は耳鳴りを伴うことが多く、難聴に気が付いたらすぐに耳鼻咽喉科を受診します。「混合性難聴」は伝音難聴と感音難聴の両方の要素をもつ難聴です。
●加齢に伴って発症する「加齢性難聴」
私たちが音を聞いて音の振動が蝸牛に到達すると、蝸牛内部のリンパ液を揺らします。蝸牛の中にある有毛細胞がリンパ液の揺れに反応して動きます。鼓膜に近い蝸牛の入口付近の有毛細胞は高い音に反応し、蝸牛の奥の方にある有毛細胞は低い音に反応。それが電気信号に変換されて脳に伝わり「音」として認識されるのです。
しかし、有毛細胞にも加齢に伴う変化が生じます。加齢とともに両耳の有毛細胞が壊れていきます。その変化は、特に高音域ほど著しいことが知られています。年を取ると高い音から聞こえが悪くなるのはそのせいです。これが「加齢性難聴」で、加齢とともに両耳の有毛細胞は壊れていき、両耳が聞こえにくくなります。「加齢性難聴」では蝸牛以外に、聴神経や脳幹、脳の聴覚野にも加齢による変化が生じますので、「会話の際、相手が何か言っているのは分かるが、何を言っているのか分からない」という訴えが多くなります。
補聴器を使うと生活上の不自由さを改善できることがありますので、早めに耳鼻咽喉科を受診します。高血圧や糖尿病などの生活習慣病があると悪化しやすいので、規則正しい生活や食事を心がけましょう。
●若い人が発症しやすい「ヘッドホン難聴」
難聴になるのは高齢者が多いと考えるかもしれませんが、若い人に発症しやすいものもあります。その一つが感音難聴の一種である「ヘッドホン難聴」です。ヘッドホンやイヤホンで大音量の音楽などを長時間聞くことで起こります。耳が詰まったような感じがして、音がくぐもって聞こえ、それが回復しなくなってしまうのです。ヘッドホンやイヤホンは長時間使わないようにして、使用後は、静かな環境で耳の有毛細胞をしっかり休ませます。耳の不調が回復しないときには耳鼻咽喉科へ。治療は薬物治療でステロイド薬、血管拡張薬、ビタミン剤などを使います。
「電車の中で若い人がヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いている姿をよく見かけますが、電車の走行音や車内のざわめきなどのために、どうしてもボリュームを上げてしまいがちです。その場合、ヘッドホンやイヤホンから聞こえる『ザー』というノイズ音も大きくなってしまうので耳によくありません。ノイズキャンセル機能を使ったり密閉型のイヤホンに替えたりすると、ヘッドホン難聴を防ぐことにつながります」と肥塚先生。
●音楽ライブなどの大音量が原因になる「急性音響性難聴」
音楽ライブや映画館などで大音量の音を聞いたあと、耳が聞こえなくなったり、キーンという耳鳴りや耳が詰まった感じがするのが「急性音響性難聴」です。「若い人でも長時間、大きな音を聞くと有毛細胞が酷使されます。静かな環境で十分な休息をとって有毛細胞を休ませないと回復しなくなってしまうことがあります」と肥塚先生。翌日になっても症状が続くときには早急に受診します。治療は薬物治療でステロイド薬、血管拡張薬、ビタミン剤などを使います。
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取材・文/松澤ゆかり