たかが肩こり、されど肩こり。放っておくと重大な病気に発展してしまう危険性もあるのが肩こりです。その原因と注意すべき痛みの種類、予防に効く姿勢やストレッチなどを、東京都済生会中央病院整形外科担当部長の手塚正樹先生に教えていただきました。
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頭を支える頸椎は7つの骨から成り立ちます。骨と骨の間のクッションのような椎間板と、首の周辺の筋肉群によって、頭を前後左右に動かすことができるのです。
「背骨は、頸椎が前方へ、胸椎が後方へと弯曲し、S字カーブを描いています。このS字カーブが上半身の重みを分散させますが、背中を丸めた猫背では、C字カーブになり頭をうまく支えられず、筋肉に負担がかかりやすいのです」と手塚先生。
■脊椎と椎骨のしくみと背骨のカーブ
背骨は24個の椎骨で成り立ち、首から腰にかけてS字カーブを描くことで上半身の重みを分散して支えています。S字カーブが崩れると周辺の筋肉への負担が多くなるのです。
猫背以外にも、座ったときに脚を組む、カバンをいつも同じ肩にかけるなど、日常生活での姿勢で背骨のS字カーブをゆがめ、首や肩の筋肉へ負荷をかけることがあるそうです。「原因を解決して肩こりを解消しないと、肩こりの悪循環である『肩こりサイクル』により、肩こりや痛みをさらに悪化させることにつながります」と手塚先生は警鐘を鳴らします。
筋肉疲労で肩こりが続くと、血行障害のため排出されない老廃物によって末梢神経が刺激され、筋肉がさらに緊張して血管を圧迫し、血流障害がひどくなって肩こりも悪化。慢性化にもつながります。これが「肩こりサイクル」です。
「まずは日常生活での姿勢から見直してください」
「肩こり」に隠された病気を見逃さないで!腕のしびれやまひがあったら要注意
「肩こりサイクル」で慢性の肩こりになると、頸椎と頸椎の間にある椎間板への負担も多くなります。椎間板は年を重ねるごとに弾力を失い薄くなっていくため、慢性の肩こりが悪影響を及ぼすことがあります。椎間板の病気で60代以降起こりやすいのは、変形性頸椎症や椎間板ヘルニアです。
「変形した骨や椎間板により、神経が圧迫されると、しびれやまひの症状を引き起こします。上腕のしびれなどの症状があるときには、早めに医療機関を受診しましょう。原因を確かめ適切に対処することが大切です」と手塚先生はアドバイスします。肩こりに潜む病気を見逃さないようにしましょう。
■肩こりの放置は首のトラブルにも!
頸椎椎間板ヘルニア
頸椎と頸椎の間の椎間板から中身(髄核)が飛び出し、神経を圧迫することで首、肩、上腕、背中、指先 などにしびれや痛みなどが起こります。これが椎間板ヘルニア。神経のダメージによっては、脚のしびれなど広範囲の症状が伴うこともあります
変形性頸椎症
加齢などで椎間板の柔軟性が失われて薄くなると、椎骨同士のつながりが不安定になり、その負担によって新たな骨ともいうべき「骨棘(こつきょく)」が生じます。この骨棘が神経を刺激することで、しびれや痛みなどにつながるのが変形性頸椎症です。
■知っておきたい達人のツボ
「胸郭出口症候群」とは?
肩こりに加えて、腕のしびれや痛み、首の痛みなども伴う病気の一つに胸郭出口症候群があります。鎖骨といちばん上の肋骨の隙間が狭くなり、血管や神経を圧迫し、症状が現れます。なで肩や筋力の弱い女性が起こしやすく、近年患者が増えています。
肩こりになりやすい人、なりにくい人
肩こりを起こしにくいのは、背骨のS字カーブを保つ正しい姿勢の人です。肩こりは、S字 カーブが崩れると筋肉への負担が増えて起こりやすくなります。猫背は背骨がC字カーブになり、よくありません。座ったときに脚を組むような姿勢や、カバンをいつも同じ肩にかけるようなことも背骨をゆがめます。また、なで肩の人は、首を支える筋肉が下がっているため、やはり筋肉への負荷が重くなります。
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取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史