「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
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1日数時間、食道が酸性にさらされると...
胃の不調と関連して、「胸やけ」という症状があります。胸のあたりに焼けるような痛さを感じる、なんだか胸のあたりが重苦しい、痛い......そのような症状を、私たちは一般的に「胸やけ」と呼んでいます。時に、すっぱいものがこみ上げてくる「呑酸(どんさん)」も同時に感じることがあります。
この症状が起きる主な原因は、「胃食道逆流症(GERD:ガード)」による「逆流性食道炎」です。通常、食べ物は口から食道、食道から胃、胃から腸へと順番に流れます。ところが、胃から食道への逆流が起こってしまうことがあるのです。胃には強い酸性の胃酸がありますから、逆流によって食道はただれ、痛みが起こります。
「24時間pHメーターという器具を使うと、食道や胃のpH(酸性度、アルカリ度の指標)を24時間計測できます。携帯式で、鼻から管を入れて、普段の生活をしながら測ります。すると1日のうち何時間くらい、食道が酸性になっているのかわかります。pH7以下は酸性で、pH4になれば酸度の強い状態におかれていることになりますが、pH4以下が24時間の10パーセント、つまり1日のうちおよそ2時間半pH4以下になると、食道はただれてくることがわかっています。24時間の20~30パーセント、つまり1日5~7時間半ほどpH4以下にさらされると、重症です」と三輪先生。
日本人の胃酸は増え、逆流性食道炎も増加
「生活が西洋化してきた、1960年頃を過ぎると、日本人の胃酸の量は増えます。原因は主に食べ物です。豊かになり、肉を食べ、たんぱく質や脂肪の摂取量が急速に増え、コレステロール値や血糖値も高まりました。そのような条件では、胃酸が出やすいのです。
胃酸が増えてきたもうひとつの原因は、衛生環境が整ったことでピロリ菌の感染が減ったことが挙げられます。胃にピロリ菌が生息すると、胃の粘膜が荒れて、萎縮性の胃炎になり、胃酸が少ない状態になります。しかしピロリ菌がいなくなれば、胃酸はたくさん出るようになります」と三輪先生。
ピロリ菌除菌をした場合にも胃酸は増えます。胃酸を中和していたピロリ菌が取り除かれると、健康にはなるのですが、胃酸が増えた分、体が対応しきれないこともあるのです。
「胃は胃酸をつくるのが仕事です。食べ物をよく消化するために必要な機能です。そして胃には胃自身を守る働きがありますから、通常は問題ありません。ところが、過剰に胃酸が増えて、食道の方へ上がってくると、いろいろな症状が出てくるわけです」(三輪先生)
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取材・文/三村路子