「牛乳で骨が丈夫になる」証明が難しいワケ。実はエビデンスは出ていない!?

特定の食品と健康との関連を結論づけるのは極めて難しい

ここが食品と健康の研究の最大の難関ポイントなのですが、例えば今回のような「乳製品と骨折」などの研究の場合、研究を難しくしている理由は、「食品はそれ単品で摂取するわけでもないし、それ単品しか食べないわけでもない」という所なのです。

つまり1種類の食品に注目するのだとしても、今回で言えば乳製品ですが、この場合でも乳製品=カルシウムだけから成り立っているわけでもありません。また乳製品だけを食べ続けている群が設定できるわけでもないですし、食べている分量も種類も環境だって違います。

統計手法はものすごい速度で進歩しているため、どんどん研究の精度は上がっていると考えられていますが、それをもってしても研究の対象外となる様々な要因を可能な限り排除し、データから可能な限りのバイアスを取り除く努力もし、なおかつコホートというかなり時間も労力もかかるタイプの研究をいくつも集めて、解析し直すという途方もないプロジェクトをもってしても、食品と健康に関する研究が今なお白黒はっきりさせるのが困難な理由はここにあるのです。

乳製品を肯定する研究と、否定する研究の両方が存在する

ただ、研究によってわかってきていることもあります。乳製品を多く摂っている人に健康上のメリットが出ている研究をいくつか紹介しましょう。

乳製品を多く摂っている人ほど脳卒中や循環器系の血管疾患やそれによる死亡率が、あまり摂っていない人に比べて低い傾向にあるという報告がいくつか出ています(6)。しかし、低い傾向にあることがわかったというくらいのもので、食べると絶対に発症予防になるから食べましょうというほど強い結果は出ていません(7)(8)(9)。

同様に糖尿病に関しても、乳製品を多く摂っている人ほど発症のリスクが低いという関連が示唆されている研究も出ています(10)。

でも逆に、健康上のデメリットの報告も少なからず出ています。

2014年にイギリスの権威ある雑誌に報告された研究では(11)、男女ともに牛乳摂取量が多い人ほど死亡率、骨折率が高く、酸化ストレスや炎症性バイオマーカー(血液中にある病状の変化や治療の効果の指標となるもの)の値が高いことが、スウェーデンの研究者らによるコホート研究の結果によって報告されました。

ただこの研究も他の研究と同様に、食品研究の難しさのために、交絡因子や逆作用現象などが排除しきれていない可能性もあり、やはりなかなか解釈が難しい所です。

とはいえ、骨のためにカルシウムやビタミンDが必要なことは変わりはないので、牛乳からだけではなく、カルシウムが摂取できるタイプの食品を、バランスよく摂ってゆくことが大事であることに変わりはなさそうです。

<結論>
・牛乳をはじめ乳製品を摂るほうが、骨が丈夫になると言いきれる研究結果は出ていない
・病気の発症率についても、乳製品を摂るほうがよいとする研究と、摂らないほうがよいとする研究が存在する
・骨のためにはカルシウムとビタミンDは必須なので、牛乳に限らずあらゆる食品から摂取したい

(参考文献)
(1)Hegsted DM. Calcium and osteoporosis. J Nutr.1986 Nov; 116(11):2316-9. PMID: 3794834 
(2)Yamamoto K, Nakamura T, Kishimoto H, Hagino H, Nose T. Risk factors for hip fracture in elderly Japanese women in Tottori Prefecture, Japan. Osteoporos Int. 1993;3 Suppl 1:48-50. doi: 10.1007/BF01621862. PMID: 8461576.
(3)Wang C, Yatsuya H, Tamakoshi K, Iso H, Tamakoshi A. Milk drinking and mortality: findings from the Japan collaborative cohort study. J Epidemiol. 2015;25(1):66-73. doi: 10.2188/jea.JE20140081. Epub 2014 Oct 18. PMID: 25327185; PMCID: PMC4275440.
(4)Larsson SC, Crippa A, Orsini N, Wolk A, Michaëlsson K. Milk Consumption and Mortality from All Causes, Cardiovascular Disease, and Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2015 Sep 11;7(9):7749-63. doi: 10.3390/nu7095363. PMID: 26378576; PMCID: PMC4586558.
(5)Malmir H, Larijani B, Esmaillzadeh A. Consumption of milk and dairy products and risk of osteoporosis and hip fracture: a systematic review and Meta-analysis. Crit Rev Food Sci Nutr. 2020;60(10):1722-1737. doi: 10.1080/10408398.2019.1590800. Epub 2019 Mar 26. PMID: 30909722.
(6)Umesawa M, Iso H, Ishihara J, Saito I, Kokubo Y, Inoue M, Tsugane S; JPHC Study Group. Dietary calcium intake and risks of stroke, its subtypes, and coronary heart disease in Japanese: the JPHC Study Cohort I. Stroke. 2008 Sep;39(9):2449-56. doi: 10.1161/STROKEAHA.107.512236. Epub 2008 Jul 17. PMID: 18635855.
(7)Guo J, Astrup A, Lovegrove JA, Gijsbers L, Givens DI, Soedamah-Muthu SS. Milk and dairy consumption and risk of cardiovascular diseases and all-cause mortality: dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. Eur J Epidemiol. 2017 Apr;32(4):269-287. doi: 10.1007/s10654-017-0243-1. Epub 2017 Apr 3. PMID: 28374228; PMCID: PMC5437143.
(8)López-Plaza B, Bermejo LM, Santurino C, Cavero-Redondo I, Álvarez-Bueno C, Gómez-Candela C. Milk and Dairy Product Consumption and Prostate Cancer Risk and Mortality: An Overview of Systematic Reviews and Meta-analyses. Adv Nutr. 2019 May 1;10(suppl_2):S212-S223. doi: 10.1093/advances/nmz014. PMID: 31089741; PMCID: PMC6518142.
(9)Ding M, Li J, Qi L, Ellervik C, Zhang X, Manson JE, Stampfer M, Chavarro JE, Rexrode KM, Kraft P, Chasman D, Willett WC, Hu FB. Associations of dairy intake with risk of mortality in women and men: three prospective cohort studies. BMJ. 2019 Nov 27;367:l6204. doi: 10.1136/bmj.l6204. PMID: 31776125; PMCID: PMC6880246.
(10)Gijsbers L, Ding EL, Malik VS, de Goede J, Geleijnse JM, Soedamah-Muthu SS. Consumption of dairy foods and diabetes incidence: a dose-response meta-analysis of observational studies. Am J Clin Nutr. 2016 Apr;103(4):1111-24. doi: 10.3945/ajcn.115.123216. Epub 2016 Feb 24. PMID: 26912494.
(11)Michaëlsson K, Wolk A, Langenskiöld S, Basu S, Warensjö Lemming E, Melhus H, Byberg L. Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies. BMJ. 2014 Oct 28;349:g6015. doi: 10.1136/bmj.g6015. PMID: 25352269;PMCID: PMC4212225.

 

柳澤綾子
医師、医学博士。東京大学大学院 医学系研究科 博士課程修了。大学院時代から公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを学んできている。現在は、東京大学および国立国際医療研究センターにて研究を行いつつ、ママ女医の立場から健康格差解消のための啓蒙活動に尽力、講演、記事監修や執筆等を行っている。海外医療活動参加歴あり。パナマにて国際船医免許取得後、世界一周クルーズ船船医として世界中からの乗客のべ8000人以上を診察、世界27カ国の病院に紹介状を持って同行医師経験あり。

※本記事は柳澤綾子著の書籍『身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。』(Gakken)から一部抜粋・編集しました。

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