加齢よる心身の老いは病気、ケガなどの悪影響をもたらします。健康寿命を伸ばすポイントは、ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善。そう語る医師・平澤精一さんの著書『60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』(アスコム)から若々しく健康に生きる秘けつをご紹介します。
【前回】朝食は豪華、夕食は素食。これが免疫力や抗酸化力を高め、体内健康を整える常識/60代からの最高の体調
夜間頻尿を改善して、睡眠や生活の質を高める
睡眠の質を高め、快適な生活を送るための新常識!
夜間頻尿を放置すると、QOLが下がり、死亡率は2倍になる
日本人の40歳以上の約4500万人が夜間頻尿を患っている
いつでも最高の体調でいるための、60代からの健康の新常識の五つ目は、「夜間頻尿を改善して、睡眠や生活の質を高める」というものです。
私の専門は泌尿器科ですが、高齢の患者さんから非常によく聞くのが、夜間頻尿の悩みです。
夜間頻尿とは、「就寝後、トイレに行くために1回以上起きなければならず、それによって日常生活に支障をきたして困っている状態」のことです。
みなさんの中にも、「歳をとってから、夜中に何度も尿意を覚えて目が覚め、トイレに行ってしまう」「そのせいで、なかなか熟睡できない」と悩んでいる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
夜間頻尿に悩む人は、年齢が上がるほど多く、日本排尿機能学会が2002年に行った調査によると、60代では39・7%、70代では62・0%、80代では83・9%の人が夜間排尿の症状を抱えており、予備軍を含めると、40歳以上の約4500万人が夜間頻尿を患っていることがわかりました。
なかなか人に相談しづらく、多くの人が「歳だから仕方がない」とあきらめてしまいがちな夜間頻尿ですが、テストステロン不足や亜鉛不足などと同様、放っておくと、心身の健康に深刻な影響を及ぼしかねません。
実は、国内の研究により、夜間排尿の回数が一晩に2回以上ある高齢者は、1回以下の高齢者に比べて、死亡率が1・98倍になるという報告が上がっています。
また、「夜間頻尿と死亡率の関係」に関する複数の研究結果を統合したところ、夜間排尿の回数が一晩に2回以上あると死亡率が29%増加し、3回以上になると46%増加するという結果が出ています。
心身の健康を妨げ、脳出血や心筋梗塞、転倒の原因にもなる夜間頻尿
では、一体なぜ、夜間頻尿が死亡率の増加につながるのでしょうか。
まず考えられるのが、夜中にいきなり冷たい便座に座ることで、急激な温度変化に伴って血圧が変動し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などが引き起こされることです。
排尿によって血管が拡張され、血圧が下がり、心臓から脳へ送られる血液の量が急激に減って、脳が酸素不足になってしまう「排尿失神」が起こることもあります。
夜間にトイレに行くと、足元がふらついたり、暗くて周りが見えなかったりするため、転倒するリスクも高まります。
アメリカの研究機関からは、一晩に3回以上の夜間頻尿があると、トイレに行く際に転倒するリスクが1・28倍になるとの報告も上がっています。
転倒した際に打ちどころが悪ければ、死亡してしまう危険性もありますし、転倒による骨折がきっかけとなって、フレイルに、そして寝たきりになってしまうおそれも十分にあります。
さらに、夜間排尿は、心身の健康やQOLにも大きな影響を及ぼします。
夜中に、トイレに行くために何度も起きると、その後眠れなくなったり、眠りが浅くなったりして、十分な睡眠、質の高い睡眠をとることができなくなります。
すると、当然のことながら、意欲や集中力が低下する、疲れが取れにくくなる、昼間に眠くなる、イライラしやすくなる、といったことが起こりやすくなります。
仕事でミスをすること、自動車を運転しているときに集中できなかったり眠くなったりして、事故を起こしてしまうこともあるかもしれません。
こうした心身の不調から、外出したり人に会ったりするのがおっくうになったり、うつ状態に陥ってしまったりする人もいるでしょう。
60代以上の人にとって夜間頻尿は、寿命を、そして健康寿命を左右する、非常に重要な問題なのです。
ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善...健康寿命を伸ばす新常識を全3章にわたって解説