普段なにげなく行っている化粧やスキンケアに、介護予防の効果が期待できることをご存じですか? 化粧による健康効果は、化粧心理学として日本で1990年代から研究されてきました。化粧品メーカーの資生堂ではこの研究を深め、「化粧療法プログラム」として介護施設などで教室を行っています。
化粧療法にはどのような効果があるのか、医学博士で介護福祉士の資格を持つ同社の池山和幸さんに伺いました。
――「化粧療法」とは、どのようなものでしょうか?
"化粧"というと、メイクだけのことを指すと思われますが、スキンケアやハンドケアも含みます。これら一連の行為により、容姿をきれいにしながら心身機能や生活機能の向上を目指すのが化粧療法です。
――実際にどのような効果が期待できるのですか?
よく知られているのは心理的な変化です。化粧をすると気持ちが明るくなりますよね。笑顔が増えたり、生活意欲が出るきっかけになるんです。例えば、要介護の方がリハビリを積極的に行うようになったり、サークル活動に参加するようになるなど行動の変化が見られたという報告があります。化粧をすると"自分に自信が持てるようになる"ことから、外出するなど生活意欲が高まります。
外出するようになると人と会い、話す機会が増える。脳に刺激を与える会話は、健康長寿の一つの方法といわれています。また、自分で化粧するという行為は脳の活性化にもつながり、認知症予防にも役立つのです。他にも口腔ケアや、腕の筋力維持に役立つことも分かっています。
――スキンケアだけでもいいのでしょうか?
化粧をするときは手や腕を使いますが、スキンケアの動作では、それらの筋肉や関節を大きく動かすことになります。
両腕の重さは体重の約8分の1といわれています。化粧水やクリームを顔に塗るには、容器を持つ、ふたを開けるといった動作が必要となり、腕を宙に浮かせて行いますから、朝晩行うことで自然に筋力や握力が付くのです。加齢により衰えた筋肉には、そういった小さな積み重ねが筋力トレーニングになるのです。トイレに二人の介助が必要だった方が、一人の介助でできるようになったという例もあります。毎朝体操をするのは大変でも、スキンケアなら肌もきれいになるし一石二鳥ですよね。
――口腔ケアにはどのように役立つのですか?
高齢期には口の中にも変化が現れ、唾液の分泌が減り、むせやすくなったり、飲みこみにくくなったりします。その予防に唾液腺マッサージがよいといわれています。肌のお手入れの際に唾液腺を意識して触れることで、唾液の分泌の促進が期待できます。簡単なので毎日行ってみてください。
健康長寿の秘訣は「食事」「運動」「交流」といわれています。化粧をしたり身だしなみを整えると、きれいになったのだからと外出する気分になり、人との交流も増えます。それにより表情が豊かになり、生活や肌にも張りが出て、元気になれます。お化粧やおしゃれをして、どんどん外に出かけてください。
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資生堂ジャパン株式会社CSR・コミュニケーション部マネージャー、医学博士・介護福祉士。京都大学大学院医学研究科にて学位取得。「高齢者と化粧」をキーワードに多岐にわたり研究。