閉経と更年期障害は「乳がん」発症に関係があるんです。医師に聞いた「がん」3つのQ&A

糖質制限、1日の水分補給量、がんは遺伝、仮眠の善し悪し...最近は健康情報がネットに溢れかえっています。そこで「食事」「運動」「睡眠」「生活習慣」などをテーマに、身近で気になる健康情報の疑問に医学のスペシャリストがお答えします。10名の医師団による共著『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム)から「健康寿命」のヒントになる記事を抜粋してご紹介します。

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【質問1】がんは遺伝するというのは本当でしょうか?

【答え】すべてのがんが遺伝するわけではない。まずそのことを知るべきです。

▼教えてくれた人=頴川 晋 先生/炭山和毅 先生/鳥海弥寿雄 先生

大腸がんの専門医の立場からお答えします。

遺伝性が明らかながんは存在しますが、数そのものが多いわけではないので、むやみやたらと心配する必要はありません。

近親者にがんが多いと言っても、80歳くらいになれば相当数の人ががんになるもの。

80歳を過ぎた祖父母ががんで亡くなったからといって、「自分もヤバいかも」と考えるのは早計です。

ただし、通常よりも明らかに血縁者にがんが多い場合、それも若くして発症している事例がある場合、さらには両親や祖父母がみな同じ種類のがんを患っている場合などは、念のため遺伝子検査を受けたほうがいいかもしれません。

大腸がんで言うと、家系的に多いと下の世代に遺伝する可能性が高いと考えられます。

検査でわかった時点で、大腸を切除して小腸と肛門をつなぐ手術をしたり、ポリープを抑える薬を飲んだりして予防に努める場合もありますが、あくまでレアケースですので極端に神経質にならなくても大丈夫です。(炭山和毅)

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炭山和毅 先生

前立腺がんの専門医の立場からお答えします。

がんには遺伝するものもあるし、そうでないもの(たとえば後天的に発がん物質が体内に蓄積されることで発生するもの)もあります。

がんとは遺伝子の病気であり、DNAの塩基がおかしくなる現象と考えてください。

DNAの情報は細胞分裂のたびにコピーされていきます。

たとえば「EGAWA(頴川)」という文字をタイプライターで「EGAWA」「EGAWA」と何万回も打ち続けてつながっているイメージで、途中で必ずタイプミスが起こります。

そのミスが放置され、しかも連鎖してしまうと、自分の細胞とは異なるもの─すなわち腫瘍(がん)ができあがってしまうのです。

ただし、タイプミスは常に起こることなので、そのミスを修復する遺伝子も存在します。

そして、その遺伝子が働いているため、簡単にはがんになりません。

また、DNAはよく電車の車両にたとえられ、車両と車両の連結部分はただの通路にすぎないと考えられてきましたが、じつはその部分がいろいろな働き、たとえば薬剤耐性などに関わっていることがわかってきました。

仮に同じような発がん物質に晒されても、Aさんは1レベルのばく露でがんになる一方、Bさんは10レベルまで耐えられる、ということも明らかになってきたのです。

いまは遺伝子の解析能力が格段に進歩しており、80年代から蓄積されたノウハウにより、すべてではないものの、遺伝性のある特定のがんの遺伝メカニズムが判明し、そのがん遺伝子をある程度まで同定できるようになりました。

前立腺がんにおいては以前から遺伝性が指摘されており、たとえば一親等以内の血縁者が前立腺がんであると、前立腺がんにかかる可能性は通常の2~4倍と言われています。

とはいえ、そもそも前立腺がんにかかる確率は、現在10万人に50人程度です。

絶望的になるような高確率ではありませんので、これをどうとらえるかは、人それぞれと言えるかもしれませんね。(頴川晋)

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頴川 晋 先生

乳がんの専門医の立場からお答えします。

2013年に、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がん予防のために両乳腺の切除、ならびに乳房再建手術を受けたことを公表し、大きな話題となりました。

彼女の母親は卵巣がんにより56歳で早世しており、それを受けて遺伝子検査を行ったところ、乳がんと卵巣がんの発生率を高める「BRCA1」という遺伝子に異常が見つかったのです。

医者から告げられた乳がんになる確率は87%。

それを聞いた彼女は、リスクを回避するために決断に踏み切ったと言います。

現在、遺伝性の乳がんは全体の5~10%程度と言われていますが、専門医として現場で患者さんを診みていると、もっと多いように感じます。

遺伝性のがんについてはまだまだ解明されていない部分はあるものの、アンジェリーナ・ジョリーさんと同じ「BRCA1」、あるいは「BRCA2」と呼ばれる遺伝子に損傷や欠陥があった場合、両親(まれに乳がんにかかる男性もいるので父親も含む)から子供に向けて約50%の確率で劣勢の遺伝子が伝わっていくことがわかっています。

そして、両親と祖父母の誰かが遺伝性の乳がんにかかり、本人に「BRCA1」もしくは「BRCA2」の欠陥が認められた場合、80歳までにおよそ70%の人が乳がんになると言われています。

ならば、少しでも疑いがあるようならすぐにでも遺伝子検査を受ければいいかというと、私はあまり推奨できません。

あくまで乳がん全体のなかで遺伝性の強いがんの比率は低いですし、いわゆるがん家系の人でも、必ず発症するとは限らないからです。

現在の科学では、遺伝子を取り換えて予防することはできませんので、私は血縁者に乳がんが多いという患者さんに対しては、早期発見、早期治療のために、若いころからこまめに検診を受けることをすすめています。(鳥海弥寿雄)

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鳥海弥寿雄 先生

【質問2】40代になってから乳がんになる人が増えると聞きました。なぜですか?

【答え】閉経と更年期障害は乳がん発症に関係があります。

▼教えてくれた人=鳥海弥寿雄 先生

乳がんの3分の2は女性ホルモンを好むタイプ、残りの3分の1はホルモンに関係しないタイプに分類されます。

とくに前者は、40代後半から発症する確率が急激に上昇することが知られています。

女性ホルモンを好む乳がんにとっての大好物はエストロゲンです。

この女性ホルモンの分泌量が増えると、それまでおとなしくしていたのが一転、がぜん張り切り出して動きが活発になります。

女性の体は閉経が近づいてくると、生理を促すためにエストロゲンが高まる傾向にあり、閉経後は脂肪細胞からの分泌量がさらに増えることがわかっています。

だから女性は、40代後半から60歳にかけて乳がん発生のピークを迎えるのです。

脂肪細胞が増えると女性ホルモンの質が高くなる可能性もありますので、肥満はひとつのリスクファクターになると言っていいでしょう。

女性ホルモンを好む乳がんは、お酒好きの人にたとえるとわかりやすいです。

アルコールを摂取しづらい環境では静かにしている一方、エストロゲンという良質なお酒が大量に目の前に提供されたら、嬉き々き とした気持ちになって、たくさん飲んでしまうことでしょう。

そして、度が過ぎることによって酩酊状態(乳がん発生)に至ってしまう、というわけです。

世の中のほとんどの女性は、いつまでも若々しく、華やかでありたいという願望を持っています。

更年期が嫌だからとアンチエイジングに走り、エストロゲンを摂取する方も多いです。

そうすることによって、ホットフラッシュやイライラが治まるなど、更年期障害が改善されたという方もいます。

うつ状態を脱し、人生がバラ色になったかのように感じる方もいらっしゃるでしょう。

最近はエストロゲンパッチというシールタイプの製剤も開発され、より簡単にエストロゲン量をコントロールできるようになりました。

しかし、人工的にホルモンを投与するというのは、人間という生きものの経年劣化に逆らう行為。

当然、プラス要素だけでなくマイナス要素や弊害も抱えています。

その筆頭に挙げられるのが、乳がんの発生率を高めてしまうことです。

事実、アメリカではエストロゲンパッチが発売されてから、乳がん患者が急に増えたと言われています。

先ほどのたとえで言うと、どんなにお酒が好きな人でも朝から晩まで飲み続けたら、気分はよくても体がもたないということ。

エストロゲンにばく露される時間の長さと乳がんの発生率は比例関係にありますので、細心の注意を払う必要があるのです。

とくに、乳がん家系を自認されている方は気をつけてください。

アンチエイジングや、更年期障害対策にエストロゲンを摂取することを全面的に止めはしませんが、副作用にもしっかり目を向けましょうと、この場で声を大にして主張しておきます。

【質問3】舌を磨くと大腸がんを防げるって、本当ですか?

【答え】口腔内をきれいにすることはがん予防につながります。

▼教えてくれた人=三澤健之 先生

舌を磨くという行為は、舌苔を洗い流すということを意味します。

舌苔は食べかすや口腔の粘膜がはがれ落ちたものであり、口のなかのゴミと雑菌のかたまりでできたタンパク質です。

それをきれいにするわけですから、どう考えても健康に寄与しないわけがありません。

昨今は病気予防のために腸内フローラを整えることが重要視されていますが、口腔と腸管内はつながっています。

口腔内を清潔にしておくのは、健康維持の基本中の基本とお考えください。

また、高齢化社会が進むにつれて、この先誤嚥のトラブルが増えていくことが想定されますが、もし口のなかを清潔に保っていなかったら、むせてなにかが気道に入ってしまったときに、ばい菌まで送り込んでしまう可能性があります。

それがもとで、肺炎を発症したとしても不思議はありません。

舌磨き、ひいては口腔内のケアは、大腸がんに限らず病気全般に影響を及ぼす要因を取り除くことになり、それがおのずと長寿につながっていくと思います。

【まとめ読み】『最強の医師団が教える長生きできる方法』記事リストはこちら!

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医学の専門家が「世の中に氾濫する健康情報の是非」を全5テーマでわかりやすく解説してくれています。

 

坂本昌也(さかもと・まさや)
「糖尿病研究」の旗手。国際医療福祉大学糖尿病・代謝・内分泌科学教授。2019年に10万人の患者データから「糖尿病は冬に悪化する」というエビデンスを世界で初めて発表。

 

頴川晋(えがわ・しん)
「前立腺がん腹腔鏡下手術」の世界的権威。東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授。世界の若手ドクターのスキル向上に貢献した成果を称し、日本人初のグローバルリーダーシップ賞に推載。

 

北原雅樹(きたはら・まさき)
公認心理師の資格ももつ、「慢性痛治療」に挑む医師。横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック教授。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」の第一人者。

 

齋田良知(さいた・よしとも)
「関節痛最先端再生医療」の第一人者。順天堂大学医学部整形外科学講座准教授。PRP注射を駆使した治療でトップアスリートから絶大な信頼を得ている。

 

繁田雅弘(しげた・まさひろ)
日本を代表する「認知症治療」の権威。東京慈恵会医科大学精神医学講座主任教授。もの忘れタイプの軽度認知症に対し、森田療法を駆使して早期治療で成果を上げている。

 

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学病態制御薬理医学講座主任教授。世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授のもと、オックスフォード大学に研究員として8年在籍。「新生児糖尿病」という難病の特効薬の発見に貢献する。

 

炭山和毅(すみやま・かずき)
AIを駆使する「内視鏡診断治療」の第一人者。慈恵大学病院内視鏡部主任教授。早期胃がん、大腸がんであれば、AIを使った内視鏡の手技により巧みに機器を操って摘出する。

 

鳥海弥寿雄(とりうみ・やすお)
高い患者支持率を誇る乳腺外科医。東京慈恵会医科大学乳腺・甲状腺・内分泌外科特任教授。外科医でありながら保険指導医としてすべての診療に通じ、総合診療能力が高い。

 

前島裕子(まえじま・ゆうこ)
福島県立医大肥満体内炎症解析研究講座特任教授。幸せホルモンと呼ばれてきた「オキシトシン」が肥満治療にも有効であることを突き止めた、世界からも注目されるトップランナー。

 

三澤健之(みさわ・たけゆき)
帝京大病院肝胆膵外科学講座教授。日本一の肝胆膵外科医を目指し、慈恵大学病院から母校に戻り、傷口ゼロのパーフェクトな手技で、「低侵襲肝胆膵手術」で数々の実績を持つ。

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『最強の医師団が教える長生きできる方法』

(10名の医師団/アスコム)

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※この記事は『最強の医師団が教える長生きできる方法』(10名の医師団/アスコム)からの抜粋です。
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