くしゃみをしたときに尿漏れ――。多くの女性を悩ませる排尿トラブルは、原因を知って対策を立てれば改善・予防ができます。薄着の季節も安心して過ごせるように、LUNA骨盤底トータルサポートクリニック院長の中村綾子先生にお聞きしました。今回は、尿漏れが起こる仕組みや、大きく3つに分類される尿漏れのタイプ、また最近注目される「GSM」と呼ばれる概念など、知っておきたい基礎知識を教えていただきました。
タイプによって異なる対策が必要。尿漏れはなぜ起こる
くしゃみでの尿漏れは多くの女性が経験していますが、ジムでの筋トレやガーデニング中、座ったり立ったりするときに生じるなど、尿漏れの状態は人によって異なります。医療機関での「尿漏れパッドテスト」は、患者さんに500㎖の水分を取ってもらった後、1時間にどの程度の尿漏れがパッドにあるかを調べ、尿量が2〜5g未満は軽度、5〜10g未満で中程度、10〜50g未満は高度、50g以上は極めて高度と判定します。
「高度の尿漏れの場合は、外科的な治療が必要となることがありますが、軽度から中程度は骨盤底筋体操や食生活の見直し、骨盤底筋矯正ショーツによって症状の改善は可能です」と中村先生はアドバイスします。
尿漏れの最大原因は骨盤底筋の緩みです。骨盤底筋は、文字どおり骨盤の底にハンモック状に位置し、子宮や膀胱、直腸などをつり上げ、尿道口や肛門の開閉および膣の出口の締まりにも関係しています。骨盤底筋が緩むと尿道の締まりが悪くなり尿漏れにつながるのです。
■尿漏れの仕組み
「骨盤底筋」は骨盤や内臓を支え、尿道、膣、 肛門をつなぐ筋肉群の総称です(上の図を参照)。 出産経験や肥満、加齢などの影響で緩みやすく、その緩みが尿漏れや頻尿につながります。
骨盤底筋の緩みは、放置しているとますます緩んで尿漏れを悪化させることにつながります。最初はくしゃみをしたときだけに起こっていたのに、スポーツジムでの筋トレ、さらには信号が変わったときの横断歩道での駆け足、そしていすに座ったときなど、日常生活のさりげない動作でも尿漏れするようになることもあります。
また、骨盤底筋の緩みで膀胱の神経がダメージを受けると過活動膀胱になり、トイレに間に合わないほどの強い尿意を感じる切迫性尿失禁になる場合も。くしゃみなどで尿漏れする腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が混在しているケースも珍しくありません。まずは、ご自身の骨盤底筋の緩みを把握して改善することが重要といえます。
■「尿漏れ」のタイプ
1)腹圧性尿失禁
骨盤底筋の緩みで膀胱の出口や尿道も緩み、くしゃみなどで腹圧がかかると勝手に膀胱の出口が少し開き尿漏れします。尿漏れの約半数を占め、骨盤底筋体操で改善可能です。
2)切迫性尿失禁
過活動膀胱によって膀胱の神経が過敏になり、膀胱が収縮して強い尿意を引き起こします。我慢できないくらいの強い尿意でトイレに行く前の失禁も珍しくはありません
3)混合性尿失禁
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の混合タイプです。尿漏れ全体の約25%を占めます。腹圧による尿漏れがあり、頻尿やトイレに間に合わないほどの尿意切迫感の症状があります。
近年わかってきたGSM。気になる症状があれば受診を
「骨盤底筋の緩みは、ご自身の膣に人差し指と中指をVサインのようにして入れて、膣を締められるかどうかのセルフチェックで分かります。膣の締まりが悪いと骨盤底筋が緩み、尿漏れも起こしやすいと考えられます。また、加齢や出産の影響で子宮や膀胱などが膣の外に飛び出す骨盤臓器脱の人も、骨盤底筋がダメージを受けて尿漏れを起こすことがあります。骨盤臓器脱は外科的な治療が必要ですが、治療によってその後の尿漏れを防ぐことにもつながります」と中村先生は話します。
骨盤底筋の緩みは、骨盤底筋体操で改善が可能です。切迫性尿失禁の人は、コーヒーや紅茶などの膀胱を刺激しやすい飲み物や食材、1日2リットルを超える水分のとり過ぎにも注意しましょう。ただし、尿漏れが続くようならば、一度は泌尿器科で原因を調べてもらうことも大切です。放置して症状を悪化させないように注意しましょう。最後に、中村先生はこのように言います。
「近年、閉経による女性ホルモンの低下で尿路生殖器の萎縮が起こり、それに伴い頻尿、尿漏れ、尿意切迫感の症状を引き起こすことも分かってきました。これを閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)といいます。GSMは膀胱炎にもなりやすく、外陰部の不快感も伴うので、気になる症状があるときは早めの受診を心がけてください」
■最近注目のGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)とは?
GSM(Genitourinary Syndrome of Menopause 、閉経関連泌尿生殖器症候群)は2014年に米国で提唱された新しい概念で、閉経による女性ホルモンの急激な低下による尿路生殖器の萎縮やそれに伴う身体症状や機能障害の総称です。主な症状は、外陰部の粘膜の乾燥による不快感や灼熱感、頻尿、尿漏れ、尿意切迫感などの排尿障害、さらには、粘膜が弱くなることから慢性的な膀胱炎を併発してしまう人もいます。治療で改善可能なので泌尿器科での受診を。
取材・文/安達純子 イラスト/松元まり子