「外に出られなかった!」介護と事故と戸締り/先に亡くなる親とアドラー心理学

親の介護で疲弊する子、こじれる関係...。さまざまな問題を抱える家庭での介護ですが、認知症を患った実父の介護の中で、専門とするアドラー心理学に「親との対人関係上の問題について、解決の糸口を見いだせる」と哲学者・岸見一郎さんは感じたそうです。今回は、そんな岸見さんの著書『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学 』(文響社)から、哲学者が介護者の目線で気づいたことをご紹介します。

【前回】「お前のカウンセリングを受けたい」介護で生まれた新たな親子関係/先に亡くなる親とアドラー心理学

【最初から読む】年のせいだと思っていた物忘れは、父に訪れた認知症の現れだった

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不可抗力が起きても過度に自分を責めない

介護の場面では、不可抗力のことがあるのを認める必要があります。

父は足腰はしっかりしていて、貧血や心臓の問題さえなければ自分の足で歩くことができます。

それでも転倒して骨折をすることがないようにいつも気をつけていました。

病院や施設などとは違って古い民家にはいたるところに段差があって、父でなくても気をつけていないと躓くことがあります。

ダイニングと寝室の境に段差があるので、一人ではダイニングに行かないようにしていたのですが、夜中に目覚めたり、朝早く起きる父はよくダイニングのほうへ行きました。

ヘルパーさんが帰られる時、父がそのままダイニングにいることまではどうすることもできませんでしたが、食事後ほどなく眠ることを習慣にしていましたから、帰る時に寝室に行くよう促してほしいとお願いしたのは一人で歩き転倒しないためでした。

最初の頃、父は私が朝行く前に起きて犬を散歩させていました。

交通量も多いので危ないので一人で行かないようにといってもききませんでした。

ある日、柿の実がなっているのを窓から見た父は柿を取りに行くために外に出て行きました。

ところが、途中で転倒したらしく、後になって父がいうには「三台の車が止まって、助けてもらった」ということでした。

そんなことが重なったので、鍵を開けて父が中から外に出られないようにすることを余儀なくされました。

中からは開けられませんから火事になったりすれば逃げ出せないわけですが、一人で外に出る時に起こりうる危険を考えればやむをえないことでした。

キッチンにも行けないようにしておかないと、冷蔵庫にあるものを夜中に食べ尽くすというようなこともありました。

「外に出ると帰ってこられなくなったり(実際、これは一人で暮らしていた時にありました)、交通事故に遭うことがないように夜は寝室とダイニングしかいられないようにする、そうしておかないと危ないことを忘れてしまって外に出て行くから」と説明しましたが、お腹が減って何か買いに行こうと外に出ようとしたことは何度もありました。

「外に出られなかったではないか」と父はそのたびに抗議するので、こんなことをしていていいのだろうかと長く悩むことになりました。

同居していればできなかったでしょうが、外からつっかい棒をしておいても、外に出てしまうという話はよく聞きました。

【ある朝腰痛が...続きを読む】

 

岸見一郎(きしみ・いちろう)
1956年、京都府生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書は『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)、『老いた親を愛せますか?』(幻冬舎)、『老いる勇気』(PHP研究所)、『幸福の条件 アドラーとギリシア哲学』(角川ソフィア文庫)など多数。

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『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学 』

(岸見一郎/文響社)

介護に勇気を与えてくれるアドラー心理学! 親の尊厳は保ちたいけど、介護に忙殺されるのもつらい…。親の介護が必要となったとき、それまでとは違った「親子関係」を築いていくことになります。じゃあそれって、いったいどんな関係がいい? 自身の介護経験を基にアドラー心理学の探究者が、介護に起こるさまざまな問題を“哲学”していきます。

※この記事は『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学 』(岸見一郎/文響社)からの抜粋です。
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