親の介護で疲弊する子、こじれる関係...。さまざまな問題を抱える家庭での介護ですが、認知症を患った実父の介護の中で、専門とするアドラー心理学に「親との対人関係上の問題について、解決の糸口を見いだせる」と哲学者・岸見一郎さんは感じたそうです。今回は、そんな岸見さんの著書『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学』(文響社)から、哲学者が介護者の目線で気づいたことをご紹介します。
【前回】毎日イライラ・・・でも続けなきゃ。「親の介護」を一人で抱え込む前に/先に亡くなる親とアドラー心理学
【最初から読む】年のせいだと思っていた物忘れは、父に訪れた認知症の現れだった
「今から」親との関係をよくすることはできる
親子関係が元々よければ、いざ介護が必要になった時も介護が楽であることは本当ですが、親子関係が昔から変わることなく良好なものだったといえる人は少ないでしょう。
それまでの親子の間に長い歴史があって、その中で軋轢もあって子どもは親に対して複雑な思いを持っているものです。
それでも、親が介護を必要とするようになった時、子どもは再び親に向き合うことが必要になります。
その上、親から一方的に(と思えるのです)過去のことは忘れたと宣言されても、そのことによってこれまでの問題が解消されるとはとても思えません。
子どもとして親のことでいつまでもこだわりがあるのに、親が過去を失ってしまうと子どもは途方に暮れてしまいます。
さらにいえば、親が過去を失ってしまった時、ただ過去が失われるだけではなく、親自身がそれまでの親ではなくなってしまうように見えるということもあります。
ここで私が親が変わるという時、必ずしも否定的な意味でいっているわけではありません。
穏やかだった親が別人のようになるということもありますが、反対にかつては支配的だった親が穏やかになるということもあるからです。
いずれの場合も、子どもは、かつてとは別人のように見える親とどう関わっていくか、態度決定を迫られることになります。
はっきりしていることは、過去を振り返っても意味がないということです。
介護が必要かどうかには関わりなく、「今から」親との関係をよくすることはできますし、していかなければ、介護はつらいものになります。