がんになると不安。つながって人生が変わった/がんになった人だけが知っている人生で大切なこと(1)

50歳前後から発症率が増加するがん。ただ、現代では早期治療をすれば生存率が高まるデータがあり、実際にがんとともに生きている人も増えています。自身も骨軟部腫瘍にかかり、がんサバイバーである医師の坂下千瑞子さんの著書『がんになった人だけが知っている人生で大切なこと』(アスコム)より、2つのケースのがんを発症したサバイバーの体験記を漫画の連載形式でお届けします。

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私は、血液内科医としてこれまで多くの患者さんの命と向き合ってきました。

しかし、39歳のときに骨軟部腫瘍(骨および軟部組織[筋肉や脂肪など]にできる腫瘍)になり、今度は自分自身の命と向き合うこととなりました。

それ以来、病気を乗り越え、自分らしく生きがいを持って生きるためには、どうすれば良いのかを考え続けてきました。

たくさんの方々の力をお借りして、今こうして、元気でいられることに感謝しています。

そして、多くの仲間と出会い、その生き方を学ぶことがとても大きな支えになったと感じています。

がんは、日本人の死因として長らく第1位の座を占めています。

かつては不治の病として、がんの告知は余命宣告と同義とされていました。

しかし、医学の進歩によって、がんはいまや治らない病気ではなくなっています。

手術や放射線治療、抗がん剤治療などを通して、がんを「乗り越えてきた」人たちが大勢いるのです。

その人たちは「がんサバイバー」とも呼ばれています。

私も、その一人です。

医師として病気を治療する立場から、ある日突然、自らが病と向き合わなくてはならないこととなり、長い闘病を経験してきました。

しかし、それは自分の人生にとって、何か意味のある経験だったのかもしれないと考えています。

がんと向き合うことを通して多くの人たちと知り合い、多くのことを学ぶことができたからです。

闘病中に私が一番辛かったのは、周囲に自分と同じ境遇の人、命の危機と向き合っている人がいなかったことでした。

そんな孤独な気持ちを癒してくれたのが、「リレー・フォー・ライフ(略称RFL)」です。

RFLとは、がん患者さんやそのご家族を支援し、地域全体でがんと向き合い、がん征圧を目指すチャリティー活動です。

1985年にアメリカで始まった活動で、詳しくは後述しますが、現在では、日本も含めた世界各地に、この活動が広がっています。

RFLには、がん患者さん本人はもちろん、それを支える家族や友人、医療関係者、製薬会社の方など、非常に幅広い方々が参加されます。

直接的な関係者だけでなく、学生さんやRFLの趣旨に賛同してくれた企業や一般の方々もいます。

各地の会場で寄付を募り、患者さんの支援や、がんの啓発やがん研究の助成をしています。

RFL最大の魅力は、自分と同じようにがんと向きあっている、あるいは、がんを乗り越えた仲間たちとの出会いです。

私自身もRFLに参加し、会場で出会ったたくさんの仲間たちから、生きる勇気と希望、そして笑顔をもらうことができました。

そこは、がん患者である(あった)ことが称賛される空間なんです。

「がん患者はかわいそうだ」と思われることがよくあります。

しかし私は「かわいそう」ではなく、彼らの病気と向き合う勇気を讃えて「すごいね!」と称賛の声を贈りたいと思っています。

「がんになっても明るく生きていい!」そんな社会になってくれたらいいなと。

いまや、がんはコントロールできる時代になってきました。

残念ながら亡くなられる方もいますが、多くの患者さんは社会に戻っていける時代なんです。

がんになってからも、人生は続いていきます。

がんになってからの人生をより良く生きることが、とても重要だと思います。

がんになったことで、孤独感を感じてしまう人がいます。

表立って病気のことを話すことが難しく、一人で悩んでしまうんですね。

そんな人たちにも、「同じように悩んだ人たちがいるよ」「そんな人たちが、いまは人生を楽しんでいるよ」と知ってほしいのです。

この企画では、がんを乗り越えて生きるために必要ないくつかのテーマについて、私自身の経験や、私の友人たちの物語をご紹介しながらお伝えできたらと思います。

紹介する面々は、それぞれが大変ながんと向き合い、乗り越え、その上で充実した人生を送っています。

RFLやさまざまな活動を通して出会った仲間たちの人生の中に、たくさんの生きるヒントが隠されていると思います。

孤独な思いをしている患者さん、またはそのご家族、そして医療に携わる人たちにとって、がんと向き合うための手助けの一つになれば、こんなにうれしいことはありません。

そして、がん患者さんの想いに関心を持ってくださるすべての人に、ぜひご覧いただけましたら幸いです。

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がんだけど、生きると決めました〈RFLと私〉

闘病中の私は、「自分はいつまで生きられるのかな」と不安な中で日々を過ごしていました。

数カ月先、生きていられるのかもわからないなか、「自分は何のために生まれてきたのだろう」とか「何のために生きているのだろう」と考え続けていました。

自分の運命を、誰かが決めているかのように思い込んでいました。

でも、リレー・フォー・ライフ(Relay For Life:RFL)という、がん患者さんを支援する活動を通してたくさんの仲間と出会い、1年後の再会を願うとともに、主体的に生きることを学びました。

私が大変お世話になっている方の一人、癒しの環境研究会理事長で医師の高柳和江先生は、「自分が生きたければ、生きると決めればよいのです」とRFLの会場で講演されました。

仲間から生きる勇気とエネルギーを得た私は、「がんだけど、生きると決めました!」とRFLの会場で宣言していました。

RFLとは、1985年にアメリカで始まったチャリティー活動です。

ワシントン州シアトル郊外のタコマで、マラソンが得意だったゴルディー・クラットという腫瘍外科医が、がん患者さんの病気と向き合う勇気を讃え、支援するために、24時間グラウンドを走り続けたのが始まりです。

アメリカ対がん協会(アメリカの非営利団体で、がんに関する情報提供、患者支援、がんの調査研究を行っている機関)のために寄付を集めるのが目的でした。

なぜ24時間だったのかというと、「がん患者は、24時間病気と向き合っている」ことを理解してもらい、支援するためでした。

彼はトラックを一周するたびに友人から寄付を募り、最終的に一日で2万7千ドルもの寄付を集めました。

翌年からは、チームを組んで24時間交代しながら歩くという現在と同じスタイルになり、その活動は全米から全世界へと広がっていきました。

日本では2006年に茨城県つくば市でプレ大会が行われ、2007年に兵庫県芦屋市で初の正式な24時間大会が開催されました。

私も実行委員として芦屋のRFL大会に参加し、仲間と出会い、勇気と希望と笑顔をもらいとても感動しました。

翌年には、私の地元である大分県で九州初のRFL大分を開催することが出来ました。

その後、大会は国内各地へと広がり、現在はおよそ50カ所で実行委員会が立ち上がり活動をしています(詳しくはRFLのHPをご覧下さい)。

がん患者さんが勇気をもらえるプログラムは、全世界共通のルールに基づいており、日本では日本対がん協会(がんの知識普及・啓発と、がん患者・家族の支援事業を行う公益財団法人)がそのライセンスを管理しています。

チャリティーとして集められた寄付は日本対がん協会に集められ、がん患者支援、がん啓発活動、がん研究助成、がん医療の発展のために使われています。

RFLは"Save Lives"を使命としています。

直訳すると「命を救う」となりますが、単に医療行為によって命を永らえるということだけではありません。

寄付金を募ることで、医療の進歩に貢献して間接的に人の命を救うこともできますし、生きる希望を失った人の支えになることもまた、命を救うことにつながります。

"Save Lives"には、「人の魂を救う」ことも含まれているのです。

RFLでは、がんの告知を乗り越え、勇気を持って今を生きているがん患者さんやがん経験者を、敬意を込めて「サバイバー」と呼んでいます。

そして、サバイバーのご家族やご遺族、支援者を「ケアギバー」と呼んでいます。

さらに活動には3つのテーマがあります。

「祝う(Celebrate)」がんの告知を乗り越え、いまを生きているサバイバーや家族などの支援者を讃え、祝福します。

「偲ぶ(Remember)」がんで亡くなった愛する人を偲び、追悼します。

また病の痛みや悲しみと向き合っている人たちを敬います。

「立ち向かう(Fight Back)」がんの予防や検診を啓発し、征圧のための寄付を募り、がんに負けない社会を作ります。

リレーイベントは24時間続きますが、距離を競うものではありません。

いろんなチームがゆったりと自分たちのペースで、交代しながら歩いています。

それぞれのチームは想いの込もったフラッグを作成し、楽しいチーム企画を考えて一緒にリレーイベントを盛り上げてくれます。

歩くことで、自分たちの体を通してそのメッセージを発信していくんですね。

チームの皆さんががん患者支援のため、がん征圧のために歩いているその勇姿が大きな希望のメッセージとなり、見ているだけでとても感動します。

私は、RFLに参加するときは、いつも「タコの帽子」を被っています(漫画にもこの姿で登場します)。

がんは英語でキャンサー(Cancer)ですが、キャンサーには、ほかに「大きなカニ」という意味があります。

実は、最初にがんをカニにたとえて記述したのは、古代ギリシアの医師で「医学の父」と呼ばれたヒポクラテスだといわれています。

ちなみに、タコはカニが大好物でパクッと食べてしまうので、がんをやっつけてしまおうという気持ちも込めて、タコの帽子を被っているんです。

会場には「一人じゃないよ。みんなでサポートしているよ!」という、癒しの雰囲気が漂っています。

そこはまさにパワースポットです。

リレーイベントを通して仲間を作り、そして、また次回のイベントで会うことを約束して別れる。

そんな経験を通して、絆が深まっていくこともあります。

同じ場所に集い、歩くことで希望をつなぎ、勇気をもらうことができるのです。

私は、RFLの活動を通して、多くの患者さんやご家族が元気になってくれればいいなと考えています。

【漫画を読む】

 

坂下千瑞子(著)

血液内科専門医、東京医科歯科大学医学部付属病院・血液内科特任教授/大分医科大学医学部卒業後、東京医科歯科大学第一内科に入局。2004年、米国ペンシルバニア大学血液腫瘍学講座の研究員となるが、留学中の2005年、背骨に腫瘍が見つかる。腫瘍脊椎骨全摘術をするも2度再発し、そのたびに重粒子線療法と化学療法を受ける。2007年よりがん征圧活動「リレー・フォー・ライフ」に携わる。2011年、東京医科歯科大学医歯学融合教育支援センター特任助教を務めた後、現職

 

横濱マリア(漫画)

元アニソン歌手の漫画家/趣味は神社仏閣巡り、カレーの食べ歩き、お酒など。著書に『おんなの酒道』(マッグガーデン)、『夢みる食卓』(芳文社)など

RFL

 

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『がんになった人だけが知っている人生で大切なこと』

(著=坂下千瑞子 漫画=横濱マリア/アスコム)

がんになった人にしかわからない不安、家族しか体験していないエピソード。人生100年時代と言われ、医療の発達により「がんと共に生きる人」が増えています。自身もがんになり、現在では元気な生活を送っている著者が出会った6名の「がんサバイバーの体験」を漫画化した本。がんと向き合う上で参考になるヒントが詰まったお勧めの一冊。

※この記事は『がんになった人だけが知っている人生で大切なこと』(著=坂下千瑞子/漫画=横濱マリア/アスコム)からの抜粋です。
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