「借りて住みたい街ランキング」1位は...本厚木! 森永卓郎さんが考える「郊外の街が人気の理由」

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、コロナ禍で変わりつつあるという「住まいの選び方」についてお聞きしました。

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郊外の人気が高まっている理由とは?

不動産・住宅情報サイト大手のライフルホームズが、コロナ下での住宅需要の変化を知るために緊急で行った調査(首都圏対象)で、「借りて住みたい街ランキング」の1位に神奈川県の本厚木が選ばれました。

都心から50kmほど離れた圏央道周辺のトカイナカ暮らしを推奨し続けてきた私にとっては、とても嬉しい結果でした。

というのも、本厚木の駅から直線距離で最も近い高速道路のインターチェンジは、圏央道の海老名インターチェンジだからです。

本厚木以外にも、9位の八王子はまさに圏央道沿いですし、2位の葛西、3位の大宮、4位の千葉など、圏央道より東京寄りであるものの、東京から少し離れた郊外が、ベストテン上位に並んでいます。

一方、これまで若者の人気を集めてきた三軒茶屋は、2月発表の調査の6位から11位にランクダウン、同じく9位だった吉祥寺は21位にランクダウンしています。

コロナで大きな変化が起きているのは、確実なのです。

都心から少し離れた郊外人気の高まりは、いったいなぜ起きているのでしょうか。

最大の理由は、新型コロナウイルスの感染リスクでしょう。

「国勢調査」で、昼間人口の平方キロメートル当たりの人口密度をみると、東京23区と武蔵野市、三鷹市は1万人を超えています。

それに対して、神奈川県は3445人、埼玉県は1713人、千葉県は1098人と、けた違いに少なくなっているのです。

新型コロナウイルスは、密になるほど感染リスクが高まることが知られていますから、人口密度が低い郊外のほうが感染防止に有利なことは、間違いありません。

実際、これまでの新規感染者数をみても、東京が圧倒的に多いことは、すでにご存じの通りです。

郊外人気の第二の理由は、豊かな自然です。

厚木には里山の風景を残し、バーベキューも楽しめる七沢森林公園をはじめとして、自然を楽しめるスポットがたくさんあります。

都市にも公園はありますが、大自然を活かしたものは、郊外に行かないと、なかなか存在しないのが現実なのです。

さらに、もしかしたら最大の理由かもしれないのが、家賃です。

ライフルホームズのサイトで家賃相場をみると、東京都心の新宿駅周辺では、3LDKの家賃相場が56万7300円となっているのに対して、本厚木の家賃相場は11万800円と5分の1なのです。

確かに都心部のほうが、雇用機会が多いのは事実です。

特に年収の高い雇用機会は大都市中心部に集中していると言ってもよいでしょう。

しかし、都心から50km圏にも、多くの雇用機会があります。

都心部に供給する食料品などを製造する工場や物流拠点が多く立地しているからです。

問題は、賃金水準が高くないことですが、家賃だけでなく、物価も安いので、高い年収を稼がなくても生活は十分できるのです。

交通手段の便利さが人気のポイント

ただし、郊外が一律に人気になっているわけではありません。

本厚木が人気を集めたのは、始発駅だということも影響しているのだと思います。

本厚木からは、多くの始発電車が運行されているので、座って通勤ができます。

しかも小田急線は、東京メトロの千代田線に乗り入れているので、都心まで座って通勤することも可能です。

特急料金は必要ですが、特急だと本厚木から霞ケ関まで直通で1時間ちょうどで到着します。

私の家も西武池袋線の始発駅にあるのですが、始発で座っていけるということには、随分と助けられました。

ゆっくり本を読んだり、パソコンで原稿を書いたりできますし、前の日に遅くまで仕事をしていたときは、睡眠不足を補うために寝ていることもたくさんありました。

不思議なことに、電車のなかというのは、よく寝られるのです。

交通面で、本厚木のもう一つのメリットは、高速道路に近いということです。

先にも述べましたが、圏央道の海老名インターチェンジが近いだけでなく、東名高速や小田原厚木道路の厚木インターチェンジもすぐ近くにあります。

そのため、どこかにレジャーで出かけるときは、とても便利です。

いまは、コロナのせいで、高速道路の渋滞は、それほどありませんが、平時だと東京を脱出するまでに相当時間がかかってしまうので、厚木発のドライブはとても有利なのです。

もちろん、東京に出かけるときも、東名高速を使えば、それほど時間をかけずに到着することができます。

こうした要因を考えていくと、本厚木がだてに1位を取ったわけではないことが、よく分かります。

ただ、逆に言えば、こうした条件を満たす郊外は、ほかにもたくさんあります。

本厚木は人気が高いため、同じような条件を持ちながら、もっとリーズナブルな価格で賃貸や購入できる場所を探すというのも、住まい選びの一つの方法になるのではないでしょうか。

【まとめ読み】森永卓郎さん「人生を楽しむ経済学」記事リスト

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。『親子ゼニ問答』(角川新書、共著)など著書多数。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2020年11月号に掲載の情報です。

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