「稼ぎの悪い亭主に比べて、君は優秀だね」って上司に言われた...。それ、パワハラですよ!

2020年は時代が大きく変化し、「コンプライアンス」の見直しがされるようになりました。たとえば、SNSを使った気軽な副業が可能になりましたが、そのやり方は本当に法律に触れていませんか? そこで、弁護士・菊間千乃先生の著書『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(アスコム)から仕事、社会生活、人間関係、家族、お金をテーマにトラブル回避のためのヒントをご紹介します。

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【事例1】性的な冗談でからかう

いまはそれアウトです 1章-イラスト2.png自分の肩をもんでいた同僚女性に「肩こり?大きな胸が重たいんでしょ」とからかったら、泣き出してしまいました。他の人には笑って対応していたのに、私だけアウト?

セクハラにより慰謝料請求もありうる!

自分は冗談のつもりでも相手が傷つけばセクハラになる

軽い気持ちでからかった後、「冗談だよ」「前に他の人に言われたときには笑っていたじゃないか」などと言い訳したことはありませんか。

相手の容姿や身体についての、性的なニュアンスを含むそうした発言は、いかなる場合でも慎むべきといえるでしょう。

セクシャルハラスメント(セクハラ)は、男女雇用機会均等法11条1項において、①職場において行われた、意に反する性的な言動を拒否したことで、当該労働者が労働条件上の不利益を受けること、または②当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること、と規定されています。

性的な冗談は職場環境を損なう

今回の事例では、「胸が重たいんでしょ」と性的な冗談を言った結果、言われた同僚女性は泣き出してしまいました。

これはこの発言により女性の就業環境が害されたといえるので、セクハラに該当するケースといえます。

もちろんセクハラによる慰謝料請求を判断するにあたっては、発言内容や、頻度、両者の関係などが考慮されますが、たった1回の発言であっても、発言に至った経緯や発言内容いかんによっては、慰謝料請求が認められる可能性がないとは言い切れません。

またセクハラは、ほとんどの会社が就業規則で禁止しているでしょうから、行為の内容によっては、社内の懲戒処分の対象ともなり得ます。

いくら自分は冗談のつもりでも、相手が傷つけば原則としてセクハラにあたります。

同じ発言でも受け手によってとらえ方は様々です。

笑顔で応対していても、実は傷ついているという人もいます。

なお、女性から男性、部下から上司へのセクハラも成立し得ますので、心当たりのある方は、お気を付けください。

【事例2】相手の配偶者の悪口を言う

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部下の女性に「稼ぎの悪い亭主に比べて、君は優秀だね」と言ったら、パワハラだと社内で注意されました。目の前の部下を褒めているのに、何がパワハラなのか、わかりません。

パワハラ「個の侵害」で、懲戒処分や損害賠償請求も!

本人を褒めているから問題ない?それも一種のパワハラです

仕事で成果をあげた部下を褒めてやる気を出させることは、上司に求められる役割の1つでしょう。

しかし、褒める方法や言い回しを間違えると、自分は褒めたつもりでも、部下には全く伝わらず、むしろ不快にさせることにもなりかねません。

今回のケースでは、部下の女性に対して、その夫を引合いに出した発言が問題となっています。

「稼ぎの悪い亭主」という発言は、業務と何ら関係なく私的なことに過度に立ち入る発言です。

いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行に向けて厚生労働省が発表した指針では、パワハラを6類型にまとめていますが、このケースはそのうちの1 つである「個の侵害」にあたる可能性があります。

パワハラと判断されれば、会社から懲戒処分を受けたり、相手から損害賠償を請求される可能性があります。

「亭主」への侮辱は なお、「稼ぎの悪い亭主に比べて君は優秀」という発言は、夫本人に対する侮辱罪(刑法231条)または名誉毀損罪(同法230 条)にあたる可能性があります。

この発言は、夫は能力が低いゆえに稼ぎが悪いと言っているに等しいとして、夫の社会的評価を害する発言ととらえることができるからです。

名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

ただしこの発言は、女性本人の社会的評価を下げるおそれがあると断定するのは難しそうです。

部下本人に対しては、侮辱罪や名誉毀損罪が成立する可能性は低いでしょう。

部下を褒める際には、余計なことは言わずに、仕事ぶりや成果について端的に褒めることを心がけましょう。

【事例3】本人の実力と関係ないことで待遇に差をつける

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係長の1人を主任に降格させました。理由は、課長である私との相性の悪さです。口の利き方がいちいち生意気で癇に障りますし、共通点がないので話も合いません。

不当な人事をしたとして会社の懲戒処分の対象に!

人事考課の裁量を超えると、降格が無効と判断されることも

人間誰しも好き嫌いはありますが、それを直接の理由に、部下の能力や成果とかかわりなく処遇を決めることには問題があります。

一般的に、誰を昇進させるかは企業の経営判断であるため、その前提となる人事考課・査定においては、使用者である会社側に幅広い裁量が認められると考えられています。

しかし、完全な自由裁量ではありません。

人事考課・査定の目的が不当である場合や、評価要素が著しくバランスを欠く場合、人事考課の裁量を超えているとして、降格などの人事が無効と判断されることがあります。

裁量を超える人事とは

では、今回のケースはどうでしょうか。

「生意気で癇に障る」ということは、程度にもよりますが、個人の受け止め方にもよるところが大きいと思われます。

必要な指導をし、是正する機会を与えずに、この点のみをもって降格させることは、人事考課の裁量を超え無効とされる可能性があります。

また、個人的に共通点があるか、話が合うかなどは、そもそも業務とは関係ないですよね。

降格が無効と判断されれば、降格に伴い賃金が低下していた場合、その差額を求めて、その従業員が会社に対し訴訟を提起することも考えられます。

また個人的な好みで不当な人事をしたとして、あなた自身が懲戒処分の対象にもなり得ます。

同じように、個人的な好みで昇進させること(例えば、自分の大学の後輩であるという理由のみで、能力や成果を全く考慮することなく昇進させてしまうこと)もやはり問題です。

全員が納得のいく人事とは永遠のテーマかもしれませんが、公平、公正という視点は、忘れてはいけませんね。

「パワハラとは何か」をまず理解しましょう

「不快にさせる」「尊厳を傷つける」かどうか パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラ......ハラスメントのニュースを目にしない日はないというくらい、様々なハラスメントが問題となっています。

パワハラやセクハラを理由とした懲戒解雇も散見されますので、「生きづらくなったなぁ」などと、ボヤいている場合ではありません。

一見難しそうなハラスメント問題も、概念をきちんと押さえれば、自分が取るべき行動が見えてきます!

まず、ハラスメントとは何か、です。

ハラスメント(英語)を辞書でひくと、「嫌がらせ」「迷惑行為」とあります。

日本語では、「他者に対する発言・行動で、相手を不快にさせる、尊厳を傷つける」「嫌がらせ」などの意味で使われています。

上下関係、性差、妊娠といったことを理由としたハラスメントが職場で良しとされないことは明らかです。

上下関係をなくしなさいというのではなく、上下関係を根拠に、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする行動はダメですよということなのです。

即アウトになる6類型とは

いけないとわかっているはずなのに、ハラスメント関連の労働紛争はむしろ増加の一途です。

そこで国は、労働施策総合推進法を改正し、パワハラの行為類型や事業主が取るべき措置などについて規定しました。

同法で、パワハラは、①優越関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的苦痛を与えること)と定義されました。

相手がパワハラだと思えばパワハラ、と間違った理解をしている方がいらっしゃるので、ここは重要です。

つまり、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しないということです。

そして、この業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為類型として、以下の6つが挙げられています。

①暴行などの「身体的な攻撃」

②暴言、必要以上の長時間の叱責などの「精神的な攻撃」

③別室に隔離、無視などの「人間関係からの切り離し」

④明らかに実現不可能なノルマを課すなどの「過大な要求」

⑤能力やこれまでのキャリアとはかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」

⑥性的志向や病歴などを本人の同意を得ずに暴露するなどの「個の侵害」

この6類型に該当すれば即アウトです。

しかし職場で問題となる事例は、微妙なケースのほうが多いかもしれません。

そんなときは原則に戻ってください。

相手の尊厳を傷つけるような言動になっているかどうか、と。

「叱責」といっても、部下の成長のための叱責なのか、自分の感情のはけ口としての叱責なのか、どちらが業務の適正な範囲で、どちらがパワハラに傾倒していくかはわかりますよね。

パワハラが怖くて部下指導ができない?

生の感情をそのままぶつけてよいことは、まずありません。

感情が高ぶったら、1 回深呼吸をして、相手に発する言葉をセリフのように考え、俳優になったつもりで発してみましょう。

パワハラが怖くて部下の指導を放棄する管理職が増えているという話も聞きますが、適切な指導は部下にとっても、企業にとっても必要です。

パワハラの何たるかを理解した上で、良い人間関係を築いてくださいね。

【まとめ読み】『いまはそれアウトです!』記事リスト
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普段の生活で「ついやってちまいがち」な違法行為が6つのテーマでシチュエーションごとにわかりやすく解説されています

 

菊間千乃(きくま・ゆきの)
弁護士法人松尾綜合法律事務所/早稲田大学法学部卒業/1995年にフジテレビに入社。アナウンサーとしてバラエティや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2007年に退社するまでの間に大宮法科大学院大学で法律を学び直す。2010年に新司法試験に合格し、2011年に弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。現在は紛争解決、一般企業法務、コーポレートガバナンスなどの分野を中心に幅広く活動中。

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『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』

(菊間千乃/アスコム)

社会の価値観が多様化して「〇〇ハラスメント」という言葉が飛び交うようになり、日常生活の中でも法律やルールのリテラシーが求められるようになりました。今や「自分の身は自分で守る」時代。職場での会話、SNSの使い方、交通ルールや家族間コミュニケーションに至るまで幅広いシチュエーションで起こりがちな「コンプライアンス違反」をテーマごとに、全6章にわたってわかりやすく構成した参考書です。

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※この記事は『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(菊間千乃/アスコム)からの抜粋です。
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