もうすぐ60歳のエッセイストに重く響いたシニア女性の実感「定年後を甘く見ていた」

もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。

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52歳を老後と思っていた頃もあった

老後をリアルに想像できないうちからこんなに老後を心配していたのかと、今にして笑える出来事があります。

30代そこそこで突然「老後に備えなければ」と一時払いの生命保険に入りました。

保険金を年金方式で受け取れるものです。

どういう設定をしたか詳細は忘れてしまっていたのですが、52歳で年金が支払われはじめました。

年金開始の通知が来たとき、何かの間違いではないかと思いました。

「52歳で年金って何?早過ぎるでしょう?」と。

きっと生命保険の営業の人から説明を受けて、そのときは妥当と思える設定をしたのでしょう。

52歳でもう老後と、30代の私は考えていたのだなと驚きます。

社会の通念でもまだまだ現役なのに。

細かな想像も同様です。

30代の頃、家の中で重いものを運ぶたびに「私、50にもなっても60になってもこんな重いものを自分で運ぶのかな」と暗い気持ちになっていました。

そのときの私は、周囲がどんどん結婚していくのに自分がそうでないことが気になっていたんだと思います。

夫がいれば夫と協力してできるのに、といったひがみもあったでしょう。

実際に50を過ぎて、立派に運んでいます。

ミネラルウォーターをいつも配達してもらっていますが、2リットルの水のペットボトルが10本入った箱を、玄関からキッチンへ。

単純計算して水だけでも20キロ、ペットボトルと段ボール箱の重さも加えたら21キロくらいのものを、ふつうに持ち上げている。

そんなことひとつとっても、老後は遠いときの方が過剰な心配をするのかもしれません。

介護についても、親がまだ介護を要する状況ではまったくない頃、親が60代で自分は30にならないうちから、すごく心配でした。

姉は結婚して、昔ふうに言えば嫁いだ人だし子どもも小さい、すると介護をするのはやはり私、そうなったら仕事はどうしようとか。

でも実際に親を介護する時になってみたら、姉の子どもは小さいどころか、とっくに成人して介護の大きな戦力になってくれた。

ひとことで言えば取り越し苦労がずいぶん多かったと、今にしてわかります。

そのときになってから考えてもいいことがあるのだなと思います。

思っているよりも「定年後は長い」

70歳の女性に言及するとき、シニアの年代にまさに入ったと述べます。

今の私は70歳を老後の入り口と思っています。

けれど実際に70歳になったら、シニアのイメージとはずいぶん違うかもしれません。

今と同じように「締切が」とか「打合せに行かなきゃ」などとせかせかした日々を送っているか、それとも仕事は減っていて、そのぶんの時間を俳句とかズンバとかお金の掛からない趣味にあてて楽しんでいるか。

70歳の女性がおっしゃっていたのは、イメージしているよりも定年後は長い。

そのかたの実感としては、定年後を甘く見ていた。

現役の頃は働くのに一生懸命で、その先をあんまり考えていなかったけども、実は長いと思い知っているところだそうです。

ただ、その長さが嫌ではない。

むしろ、老後という時間が人生にないと、人生がいびつなものになると言います。

70歳の人の言葉として、とても重く受け止めました。

全力疾走のままで行ったら、何かが欠落したまま駆け抜けてしまう、こともあるのだろうかと考えさせられました。

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70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています

 

岸本葉子(きしもと・ようこ)
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。食や暮らしのスタイルの提案を含む生活エッセイや、旅を題材にしたエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に支持を得ている。著書に『ちょっと早めの老い支度』(オレンジページ)、『50歳になるって、あんがい、楽しい。』(だいわ文庫)、『人生後半、はじめまして』(中央公論新社)など多数。

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『ひとり老後、賢く楽しむ』

(岸本葉子/文響社)

ひとり暮らしで不安、お金の問題など誰もが老後の生活を不安に思うものです。90代のひとり暮らしは何を手伝ってもらえばいいのか、80代で老人ホーム入居を考えているのか、現在、ひとりで過ごす高齢者の声も集めました。早めに準備をはじめて、不安や恐怖をなくせる、老後を楽しむための参考書です。

※この記事は『ひとり老後、賢く楽しむ』(岸本葉子/文響社)からの抜粋です。

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