「もう教えることはない」鱗滝のひと言で...『鬼滅の刃』に学ぶ「ひとりぼっち」の成長術

社会現象にもなったマンガ『鬼滅の刃』をご存じですか? 主人公が妹を守って戦う姿に感動し、「私も強くなりたいな...」と憧れを感じたした人も多いのではないでしょうか。そこで大ベストセラー漫画の主人公の生き方を参考に、キャリアカウンセラーの井島由佳さんが「強く生きるための教え」を語ります。その井島さんの著書「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」(アスコム)から問題を解決する、状況を好転をするためのヒントをご紹介します。

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1~10まですべてを教えてもらえると思うな

私たちは、生まれ持った本能だけで生きていくことはできません。

子どものころは親や先生から、トイレの使い方や洋服の着方といった生活の基本にはじまり、良いこと悪いことの区別、あいさつ、食事のマナー、読み書き、お金のルールなど、ありとあらゆること教えてもらいます。

学生時代には勉強、スポーツ、文化活動の指導者から基礎を教わり、社会人になれば上司や先輩から仕事の仕方を教わります。

どこまでいっても教えてもらうことだらけ。

「人生は一生勉強」といいますが、まさにその通りといっていいでしょう。

こうした教えに素直に耳を傾けることが成長するための第一歩。

炭治郎が強くなっていったのも、鱗滝の教えに素直に従ったからです。

だからといって、なにからなにまで教えてもらえると思っていると、それも間違い。

いつまでも誰かに頼りっぱなしで生きていくことはできないのです。

どこかで独り立ちしなければならないときが、必ず来ます。

炭治郎のそのときは、唐突に訪れました。

鱗滝のもとでの厳しい修業に1年間耐えたころのことです。

「もう教えることはない(中略)あとはお前次第だ お前が儂(わし)の教えたことを昇華できるかどうか」(1巻第4話「炭治郎日記・前編」より)

このひと言を機に、鱗滝は本当になにも教えてくれなくなりました。


〇〔育手〕鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)

鬼殺隊への入隊希望者に剣士の基本をたたき込む「育手」。炭治郎の育手が鱗滝である。中途半端な鍛錬では鬼を狩れないため、炭治郎に課される修業はとにかく厳しかった。最後に炭治郎に与えた課題は、自分より大きな岩を斬ることだった。


しかも、炭治郎の体よりも大きい岩を斬るという、きわめてハードルの高い最終課題を押しつけておきながら、です。

炭治郎は、どうやったらその岩を斬ることができるか、自分で考えるしかありません。

錆兎(さびと)と真菰(まこも)も具体的な方法を教えてくれるわけではありません。

炭治郎は鱗滝に習ったことを繰り返し、必死に岩に挑みます。

何度も何度も失敗し、くじけそうになりながらも、己を鼓舞してチャレンジし続けます。

そして、鱗滝のあのひと言から1年後、ついに岩を斬ることに成功するのです。

人間は誰かになにかを教えられながら成長するものですが、いつかどこかで自分で考える必要に迫られるときがあります。

誰も教えてくれない。

自分で答えを導き出さねばならない。

そんな局面は、誰にでも訪れます。

ところが、今の若い人たちは、いつまでも教えてもらえると思っている人が多いように映ります。

「教えてくれるのが当たり前」と思っていて、失敗すると「丁寧に教えてくれなかったからできなかった」と逆ギレしたり、開き直ったりする人もいます。

なにごとも、基礎は誰かに教えてもらって然るべきです。

しかし、基礎が身についたら、応用は自分で考えなければなりません。

そう自覚しておかないと成長できないし、「頼れる誰か」がいない場面に身を置くことになったら、本当になにもできない人になってしまいます。

たとえば、1人で海外で暮らさなければならなくなったら、どうしますか?

現地の人に教えてもらおうと思っても、日本語が通じない国ではうまくコミュニケーションがとれません。

相手も、教えたくても教えられません。

「やってもらえる、教えてもらえるのが当たり前」の人は、途方に暮れることになるでしょう。

しかし、自ら考えて行動できる人は、つたない外国語でなんとか思いを伝えようと努力したり、絵やジェスチャーを使ったり、相手の表情や仕草を観察したりすることによって、相手が伝えたいことを読み取ろうとします。

その差は、とても大きいと言っていいでしょう。

職人の世界では、師匠が弟子に「俺を見て技術を盗め」と言うのは当たり前。

自分で考えるというスタイルを確立させないと、本物の技術や知識を身につけることはできないのです。

わからないことがあると、なんでもすぐにネットで検索し、まとめサイトやハウツーサイト、ウィキペディアに頼る。

便利だから使うのですが、この姿勢も、いかがなものかと思います。

なかには、ネットで得た情報を、あたかも自分の体験かのようにレポートにそのまま書いてくる学生もいるから困りものです。

また、検索で情報が出てこなかったからと、そこでやめてしまうこともしばしば。

それがだめなことだということに気づかない学生を見ていると、彼らの将来が不安になります。

もちろん、ネットで調べることがすべて悪いわけではありません。

かくいう私も、日ごろから活用しています。

問題なのは、インターネットに頼りきりになることです。

それでは、考える力の成長が止まってしまいます。

ネット検索は、あくまで取っかかり。

その後は、使える情報とそうでない情報を取捨選択し、その情報をいかに有効に使うかを考える。

インターネットが、必ず正解を教えてくれるわけではありません。

いや、ベストアンサーは教えてくれないと思ったほうがいいでしょう。

自分で考えなければ、真の答えにはたどり着くことはできないのです。


◎〔隊士〕竈門炭治郎(かまどたんじろう)
『鬼滅の刃』の主人公。嗅覚にすぐれている。鬼に襲われた家族のなかで唯一生き残ったが、鬼化してしまった妹を人間に戻すために鬼殺隊の剣士となる。家族思いで心優しい炭売りの少年は、厳しい鍛錬と鬼との戦いを重ねることで、心身ともに強い剣士へと成長する。


【まとめ読み】「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」記事リスト

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登場人物の相関図や説明をもとに主人公から社会を生き抜く心構えを全5章で学ぶ

 

井島由佳(いじま・ゆか)
大東文化大学社会学部社会学科助教。専門は教育心理学、キャリア心理学。キャリアデザインに関する教員研修、キャリアカウンセラー養成講座を担当し、大学のキャリアセンター長として学生も支援。「鬼滅の刃」「ワンピース」「NARUTO」などマンガを活用した講義・研修・セミナーが人気。

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「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」

(井島由佳/アスコム)

「目標達成に努力は欠かせない」「人間は一人じゃ生きていけない」「相手を認め、敬い、大切にする」…。6000万部のベストセラー漫画の主人公を中心にした登場人物の言動や立ち振る舞いから「人生の心構え」を紹介。現代人が忘れかけている当たり前のこと、やって然るべきことなど「人間の強さ」を心理学的な視点で解説し、人生に活用する一冊。

※この記事は『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方(井島由佳/アスコム)からの抜粋です。

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