コロナで考えた「逆・翔んで埼玉」/森永卓郎「人生を楽しむ経済学」

新型コロナウイルスが都心に集中して拡大した影響を受け、経済アナリストの森永卓郎さんは「今回急速に広がったテレワークが定着するようになれば、大都市を捨てるという選択肢も加わり、人生100年、どこで暮らすか考える機会に」と提案しています。定期誌『毎日が発見』の森永さんの新連載「人生を楽しむ経済学」からお届けします。

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都市に集中するコロナウイルス感染

日本で唯一、新型コロナウイルスの感染者が確認されていない岩手県(5月8日現在)の達増(たっそ)拓也知事が、4月7日に政府の緊急事態宣言を受けて、「7都府県の方々には他地域への往来を控えてほしい」との談話を出しました。

秋田県の佐竹敬久(のりひさ)知事も「首都圏から来県する人が増えて感染が広がった。避難や帰省で地方に来ないよう注意してほしい」と話しています。

こうした知事の発言は、東北地方にとどまらず、全国に広がっています。

例えば、沖縄県の玉城(たまき)デニー知事も4月8日に、宣言の対象地域の7都府県を含めた県外全てからの沖縄への渡航を自粛するよう呼びかけました。

言うまでもなく観光は沖縄県の基幹産業です。

その沖縄県でさえ、他県からの来訪を自粛するように求めているのです。

私自身も、名古屋のテレビ局から、東京のコメンテーターは、スタジオ出演を自粛してほしいと言われて、出演は東京からの中継になっています。

こうした状況のなかで、私は『翔んで埼玉』という映画を思い出しました。

映画のストーリーは、こうです。

昔、埼玉県民は東京都民から迫害されていた。

東京との県境には、関所が設けられ、東京に行くには通行手形が必要です。

通行手形なしで東京に潜入した者は、強制送還の憂き目に遭います。

そこで、埼玉県民が通行手形廃止のために立ち上がるのです。

映画には、東京礼賛と埼玉蔑視の場面が、繰り返し出てくるのですが、もちろんこの物語の背景には、社会に広がる圧倒的な東京優位があります。

ただ、いまの日本では、真逆のことが起こっているのです。

これまでの日本は、東京の一人勝ちでした。

人口移動をみても、東京圏は24年連続で転入超過になっています。

東京が皆の憧れだったのです。

もちろん、東京だけではなく、地方圏のなかでも中核都市への集中が起きて、田舎はどんどん過疎化していきました。

ただ、新型コロナウイルスは、多くの国民が憧れた大都市を直撃しました。

実際、全国の感染者数の3分の2以上が、4月7日に緊急事態宣言の出された7都府県に集中しているのです。

なぜ、そんなことが起きているのか、理由は明確だと思います。

大都市ほど、密閉、密集、密接の三密に身を置く時間が長いからです。

典型は大都市で毎日繰り返される通勤や通学の電車です。

先日、地方の方と話をしていて言われたのは、地方は、もともと人がまばらな上に、車での通勤が多いから、人との接触の機会が大都市と比べて圧倒的に少ないということでした。

地方移住の流れが加速する?

実は、コロナ騒動が起きる前から、地方移住を考える人は急増していました。

例えば、地方移住を支援する「ふるさと回帰支援センター」の相談件数は、2008年に2475件でしたが、2014年に1万2430件と1万件を超えました。

そして、その後急増を続け、2019年には4万9401件に達しています。

実際に移住した人の数は、まだそれほど増えていませんが、移住の機運が高まっていることは、間違いありません。

機運が高まった理由は、大都市での生活がとても窮屈になってきているからです。

高過ぎる家賃、高過ぎる物価、過酷な労働、少ない自然、そうした都市生活のデメリットが、大都市がもたらしてくれる華やかな刺激というメリットを追い越し始めてきたからでしょう。

新型コロナは、そうした機運を実際の行動に結び付ける可能性が高いのではないかと私は見ています。

特に、新型コロナの影響で、急速に広がったテレワークが定着するようになれば、大都市を捨てるという選択肢が、より現実味を帯びてくるでしょう。

人生100年どこで暮らすか考える機会に

もちろん、地方が全ての面で優れているとは言えません。

特に田舎になると、非常に濃い人間関係に入らないといけませんし、共同体を維持するためのさまざまな仕事も降りかかってきます。

そして、何より問題なのは、雇用の機会が多くないことです。

ただ、大都市対田舎という二者択一で考えるべきでは、ないでしょう。

その中間に、郊外とか地方中核都市とか、さまざまな選択肢があるからです。

ここからは、個人的な感想ですが、私は、田舎らしい田舎に移住できるのは、若者が中心になると考えています。

若者は、まだ柔軟にライフスタイルを変更することができるので、田舎の人間関係や共同体の掟(おきて)に順応することができるからです。

一方、中高年は郊外生活が精一杯かもしれません。

私の住んでいるところは、都会と田舎の中間ですが、すぐ近くの畑を借りて耕作もできていますし、東京に出稼ぎに行くのもそれほど苦労はしません。

ただ、年金生活に入れば、再び自由度が高まります。

現役時代のようにたくさん稼ぐ必要がなくなるからです。

ですから、人生100年を見据えて、自分がどの地域で暮らすのが幸せなのかを、しっかり考えておいた方が良いと思います。

私は、ずっと埼玉の片隅で暮らすつもりです。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著(共著)に、『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

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『親子ゼニ問答 (角川新書)』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

「老後2000万円不足」が話題となっていますが、「金融教育」の必要性を訴える声が高まっています。ですが、日本人はいまだに「お金との正しい付き合い方」を知らない人が多いようです。経済アナリストの森永親子が「生きるためのお金の知恵」を伝授してくれる、話題の一冊です。

この記事は『毎日が発見』2020年6月号に掲載の情報です。

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