いざというとき「救急車を呼ばない」選択も。関心が高まる「在宅医療」の基礎知識

誰にでも最期は訪れます。本人だけではなく、家族もあらかじめ心の準備ができるよう、治療方針などを書面に残しておくことが必要です。その大切さを考えます。医学博士の高林克日己(たかばやし・かつひこ)先生に、在宅医療のメリットやデメリットなどの基礎知識について教えてもらいました。

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患者さんが希望するのは在宅での医療

「私が現在の病院に来てから4年半の間に86人の患者さんを看取り、半数の43人が自宅で最期を迎えました」と訪問診療を行っている高林先生は話します。

末期がんなどで余命を告げられた人は、これまでは病院の緩和ケア病棟などで過ごすケースがほとんどでした。

しかし、住み慣れた自宅に戻って最期のときを過ごしたいと願う人は少なくありません。

「いまは本人が希望すれば、自宅に戻って過ごすことが可能になってきました。それは『在宅医療』のしくみが広まってきたからです」と高林先生。

在宅医療では、体が弱って通院することが難しい人が、自宅で継続的に医療や看護などを受けられます。

その中心となるのは、在宅医による「訪問診療」と訪問看護師による「訪問看護」で、患者の自宅を訪問します。

「当院では症状が重い患者さんは毎日訪問したり、いざというときには24時間対応で『看取り』まで行います」

■終末期に医療・療養を受けたい場所はさまざまです

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出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」(2018年)を基に作成。

在宅医療では在宅医と患者が親密になる

在宅医療の特徴は「医療」よりも「生活」を重視すること。

自分らしい生活を送れるのがメリットです。

「自宅に戻ると元気になる人が多いです。ある患者さんは余命1カ月と言われましたが、自宅に帰ったら10カ月も過ごすことができました」と高林先生。

訪問診療では生活の場である自宅に、在宅医が原則月2回は診察に訪れます。

患者は自分の暮らしぶりを知ってもらえます。

在宅医と親密な関係を築きやすくなり、次第に何でも話せるようになるのです。

「在宅医と本音で話すことで、患者さんは心の準備ができて、恐れや不安を和らげられます」

在宅医療のメリットとデメリットとは

【メリット】
● 自宅なので自分の趣味や好きなことをして自由に過ごせる。
● 自分の好きな食べ物や飲み物が取れる。
● 入院費などの費用がかからない。
● 病院に通院しなくても、訪問診療が利用できる。

【デメリット】
● CTやMRIなどの精密検査ができない。
● 病状が急変しても、すぐに病院のような処置が受けられない。

いざというときに救急車は呼ばない

在宅医療では、本人だけでなく家族に対するサポートも欠かせません。

余命が限られた人の看病は、肉体的、精神的につらく感じることがあるからです。

医療や介護のさまざまな職種の人たちが、本人や家族を支えています。

高林先生の病院では在宅医療を始める前に、延命治療についての意思を記した「事前指示書」の提出を求め、患者の意思を共有します。

「延命治療を望まなければ、『容体が急変しても救急車を呼ばずに、在宅医か訪問看護師に連絡してください』と家族に伝えておきます。そうすることで、患者さんが希望する最期を迎えられます」

在宅医療を支える人たちとしくみ

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ホームヘルパー
自宅を訪問して食事、入浴などの介助や調理などの家事を行います。

ケアマネージャー
介護サービスに必要な「ケアプラン」を作成。連絡や調整をします。

在宅医
定期的に訪問し診察や治療、看護師への処置の指示などを行います。

訪問薬剤師
薬を届けて飲み方や副作用を説明。飲み忘れがないかも確認します。

訪問看護師
療養上の世話や医師の指示による注射などの医療処置を行います。

訪問歯科医
虫歯の治療や入れ歯の調整、感染症予防の口腔ケアなどを行います。


【体験談】在宅医療での過ごし方

車いすで九州への里帰りを実現:Aさん(60歳代女性)
乳がんで入院していたAさんは、薬で痛みを抑えるだけの治療だったため、在宅医療に切り替えました。自宅に戻ったのは、数カ月間でしたが、家族と一緒に過ごすAさんの表情は明るくなりました。Aさんは「もう一度、故郷の九州に行ってみたい」と車いすを使って娘と一緒に飛行機で帰省。自分の望む最期の時間を過ごすことができました。

1人暮らしの自宅に戻り2年間暮らす:Bさん(70歳代男性)
Bさんは前立腺がんで入院。病気のせいか、よく苛立っていました。Bさんが「1人暮らしの自宅に帰りたい」と希望して在宅医療に。自宅に戻ると自分の好きなように過ごせるので、言動が穏やかになりました。訪問診療を受けながら、ホームヘルパーが1日3回、食事の用意や身の回りの世話をして、亡くなるまで2年間過ごしました。


取材・文/松澤ゆかり イラスト/伊藤絵里子

「自分らしく最期を迎える準備の仕方」その他の記事はこちら!

 

<教えてくれた人>

高林克日己(たかばやし・かつひこ)先生

三和病院顧問、千葉大学名誉教授 。医学博士。東松戸病院、千葉大学医学部附属病院などを経て現職。著書に『高齢者終末医療最良の選択』(扶桑社)。

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この記事は『毎日が発見』2020年4月号に掲載の情報です。

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