親などの介護に奮闘することで、仕事を辞めてしまう「介護離職」。しかし、介護をきちんと続けるには、「自分第一で考えること」が重要だとされています。そこで、介護支援の専門家・飯野三紀子さんが執筆した、『仕事を辞めなくても大丈夫! 介護と仕事をじょうずに両立させる本』(方丈社)から、仕事を続けながら介護と向き合う方法について、連載形式でお届けします。
【とらわれ】介護のカミングアウトが恥ずかしい
週日の美術館や図書館で、ひとの波を眺めてみましょう。だいたいは高齢者です。住宅地にいけば、デイサービスの送迎の車が目立ちます。歩道では、半身まひのかたが車椅子のかたとすれ違い、超高齢社会の訪れを感じます。長寿社会は喜ぶべきことです。
医療に恵まれた現代では、脳梗塞で倒れても、四時間半以内なら、t=PA治療(血栓溶解療法。点滴治療・専門病院で可能)で、4割の方がほとんど後遺症なしに回復します。
8時間以内ならカテーテルでの治療(血栓を吸い取る、からめとる)で回復を図れます。10年前なら助からなかったひとが助かるのが現代です。高齢者や障がい者を守り共存する社会へ、システムを改良していかなければいけません。
つまり、これからは、病も介護も「暗い」「忌避すべき」イメージではやっていけないし、死も堂々と語られる社会に移行していきます。そうしたなかで、「介護を普通に語る時代」になっていくでしょう。
もうひとつ、必要な視点は、自分たちの未来への考察です。いまの40、50代が高齢者になる頃には、公的年金は、より厳しさを増していると思いますし、子供がいたとしても、介護離職してまで全面介護されるのは、当人にとっても、子供にとっても、よりリスクが高まっていることが予想されます。だとしたら、我々はいま、自分の家族の介護体験から学び始めるべきではないでしょうか。
まずは「介護のカミングアウト」をして、働きながら介護の道を踏みだしていく。仕事と介護の両立の経験を積み重ね、自分たちに介護が必要になったときに、介護難民にならないよう、備えていかなければなりません。
そうです。働き方改革は、会社や社会の問題ではなくて、自分たちの問題なのです。
いまはまだ、介護をカミングアウトするのは、抵抗を感じるかもしれません。言わなくてはいけないと思っていても、「上司や部下から、迷惑だと思われるかもしれない」、「プライベートなことを公表しなくても」という気持ちが足をひっぱります。
さらには、「自分のキャリアに悪影響が出るのでは」、「会社から自分への評価が下がるかも」と自分の身を案じる気持ちも湧いてきます。
しかし、勇気を持ってカミングアウトすれば、自分のキャリアプランの覚悟が決まり、有効な助言を得られたり、制度の利用がスムーズになり、むしろ、気持ちは明るく、自己肯定感も高まるものです。
自分のなかにある隠そうとする心理
介護のカミングアウトをためらうときは、自分の中に介護していることを隠したい心理があるのか、見つめ直してみましょう。
信頼し尊敬している親や配偶者、自慢の子、誇らしい兄弟や親戚が、介護され、それまでのイメージを一変させてしまうことが恥ずかしい、表に出す必要はない、と思ってしまう気持ちはないか、と。
実際、オムツ姿だったり、食べこぼしの沢山ついた服を着ている姿を、かわいそうと思うのと同時に、恥ずかしいとも思うのが、身内です。また、自分自身が現実を認めたくないという思いが強いことから、カミングアウトを拒む心理も働きます。
かつて認知症を痴呆症・ボケと言っていた時代の偏見が自分自身にあるのかもしれません。介護が必要な状況は、誰も望んでなることではない。ならば、恥の意識をもつことのほうが、おかしいのです。
他人の介護や障がいを差別しない、だから、身内に対する介護や障がいへの見方も解放しましょう。
介護の現実は辛いとしても、心を強くするしかありません。介護と仕事を両立させていくためにも、カミングアウトから一歩を踏み出しましょう。そこで波風が立つかもしれません、だとしても負けないでください。
「常に真実を話さなければならない。なぜなら真実を話せば、あとは相手の問題になる」という言葉が思い出されます。
カミングアウトは自分の直面する状況を、受け入れる宣言でもあります。
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