ケアハラしてない?されてない?「介護」を理由に仕事を休むべき法的根拠

親などの介護に奮闘することで、仕事を辞めてしまう「介護離職」。しかし、介護をきちんと続けるには、「自分第一で考えること」が重要だとされています。そこで、介護支援の専門家・飯野三紀子さんが執筆した、『仕事を辞めなくても大丈夫! 介護と仕事をじょうずに両立させる本』(方丈社)から、仕事を続けながら介護と向き合う方法について、連載形式でお届けします。

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【とらわれ】職場に家庭の事情を持ち込まない

前回紹介したシステムエンジニアの孝さん(当時40歳、東京在住)の介護離職の実例では、孝さんの離職をあと押しした最大の力は、職場の無理解とケアハラスメント(ケアハラ)でした。以下のような上司の言葉が、それにあたります。

「きょうだいや親戚に頼めばいいじゃないか。仕事が大変なときなんだから」「なんとかできないのか!」「いいけど。でも、いつまでも続くと困るよね。休みが多くなると今後のキャリアや評価にも影響するよ」

これらはすべてケアハラスメント。介護と仕事を両立しようとする社内のひとへのハラスメントです。言ったほうはたいした悪意がないつもりでも、言われたほうはひどく傷つき、退職にまで追いやられる、それがハラスメントです。

孝さんも、「それはケアハラスメントです」と抵抗できませんでした。彼自身も、職場に介護は持ち込んではいけない、介護は家族の問題だからという考えに「とらわれ」ていたからです。

「会社に迷惑をかけて申し訳ない、部下からも文句を言われて立場がない。これまで評価され慕われ堂々と生きてきたのに、こんな卑屈な思いをするなら会社にはもういられない、という思いがグルグル渦巻いてそこから逃れるように退職してしまいました」

退職したとき、孝さんは93日取れる介護休業や介護休暇などの法制度を知りませんでした。

セクハラという言葉が一般化され、無神経な行為や言葉が職場から減っていったように、介護しながら働くのが当たり前の社会がくれば、ケアハラスメントもいずれ消えていくことになるでしょう。すぐにそんな時代がやってきます。「あのときあんなこと言っちゃった、しまったなあ」と、苦い思い出を噛みしめないためにも、介護離職問題を理解してください。

いまの40、50代は高度成長期を牽引してきた仕事一途な父親と、良妻賢母の母親で育った世代。孝さんの父親も出世競争のなかで、上司の評価、部下からの評価に神経をとがらせ、残業もいとわずの人でした。父は孝さんが大学生のとき心疾患で亡くなりました。

母親は結婚前には仕事をしていましたが、孝さんが生まれると専業主婦となり、父親が仕事一途でいられるよう、支えてきました。

孝さんの祖父母の入退院の世話は、母親がひとりで担ったそうです。母方の祖父母は母の兄の嫁が介護して見送りました。孝さんは懸命に生きた父、舅姑を介護した母をみて育ち、母に介護が必要になったとき、母のように自分もしなければと思ったのです。

孝さんの退職は5年前のことです。5年の間に介護問題への関心は高まりましたが、いまもまだまだ介護は家族の問題という意識でいるかたが多いのです。

いまの60~70歳の世代では「終活」が流行り、死に方や自分の介護を話し合うことも多いのですが、子の世代では、まだまだ、介護や認知症は、他人事です。親に降りかかってくるであろう問題は、恐れるあまり見たくない、知りたくもない。「親の介護や看取り、終末期の問題を、介護保険に加入する40歳になったら常識として知っておきましょう」

「親が認知症になってからでは、親の意思を確かめられなくなって困るのですよ」とセミナーの案内をすると、「介護の勉強?いまはちょっといいです。いざとなったらで」「そういうこと、親に聞けないですよ」と断られます。

介護が自分の身に降りかかるとは「考えたくない」「認めたくない」、という人々が多いせいか、育児・介護休業法が存在することや、2017年1月1日から改正されたことを知らないひとも多いのです。

介護休業法の改正の要点は、4つです。

1、介護休業の分散取得
介護を必要とする家族(対象家族)ひとりにつき、通算93日まで、3回を上限として介護休業を分割して取得可能

2、介護休暇の取得単位の柔軟化
一年に5日(対象家族が二人以上の場合は10日)まで、介護そのほかの世話を行うための取得が可能だが、半日(所定労働時間の2分の1)単位での取得が可能

3、介護のための労働時間の短縮
(1)所定労働時間の短縮措置、(2)フレックスタイム制度、(3)始業・終業時間の繰上げ、繰下げ、(4)労働者が利用する介護サービス費用の助成、そのほかこれに準じる制度

4、残業の免除
対象家族ひとりにつき、介護の必要がなくなるまで、残業の免除が受けられる制度二人兄弟が多い中高年世代は、数からすれば親と子は一対一の比率。だとすれば、介護は、社長から社員、契約社員、パート社員まで、男性、女性にかかわらず、だれにも平等にかかってくる問題なのです。

これからの会社、社員は、育児・介護休業法を理解して、ワークライフバランスを考え、その上で予測不能な現実に柔軟に対応する知恵を身につけてこそ、生き抜いていけます。

まずは、「職場に家庭の問題を持ち込まない」というとらわれを意識からはずしていきましょう。

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51jkcHLCo3L._SX337_BO1,204,203,200_.jpg「がん終末期」「認知症」といった状況の違いも踏まえ、13章にわたって介護問題の原因と対策がまとめられています

 

飯野三紀子(いいの・みきこ)

(社)介護離職防止対策促進機構 理事。ウェルリンク(株)にて「介護とこころの相談室」を立ち上げ、現在、専任チーフコンサルタント。企業の人事部経験を経て、人材紹介会社で、キャリアコンサルタントとして従事。2000年に母と2人で叔母の介護と看取りを経験。その後、母親が認知症発症、同時期に親友のうつ病介護が重なり会社員生活を断念。自身のキャリアを見直しフリーランスとして独立。心の問題を扱うべく大学で心理学を学び直し、現在は、要介護4の母を在宅介護しながら、働く人の「心の健康」と「介護と仕事両立」のための支援を行なっている。5人の介護と4人の看取りを経験。ココロとカラダのケアラボ主宰。

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『仕事を辞めなくても大丈夫! 介護と仕事をじょうずに両立させる本』

(飯野三紀子/方丈社)

「介護離職」「介護うつ」「家族間ギャップ」など、介護にまつわるあらゆる問題の解決方法が分かる「介護の指南書」。家族や親友など5人の介護と4人の看取りを経験し、悩み抱える多くの人々を支援してきた著者が、実体験に基づく実践的な介護の心得を示しています。「人生100年時代」とも言われる現代、誰にでも訪れる「介護」に備えるべし。

※この記事は『仕事を辞めなくても大丈夫! 介護と仕事をじょうずに両立させる本』(飯野三紀子/方丈社)からの抜粋です。

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