よりよい介護のコツは、介護する人が無理せず周囲とよい関係を築くこと/在宅介護

介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。

よりよい介護のコツは、介護する人が無理せず周囲とよい関係を築くこと/在宅介護 pixta_46578222_S.jpg前の記事「在宅介護から施設などへの住み替えを考えるのはどんなとき?タイミングは?/在宅介護(13)」はこちら。

 

●「介護離職」をしない方法を家族で話し合っておく

仕事をしている人が、家族などの介護を理由に仕事をやめることを「介護離職」といいます。介護は急に始まることが多く、生活が一変することも珍しくありません。そのため、「仕事をやめて自分が介護しなければ」と思う人が多いようです。しかし、仕事をやめてしまうと収入がなくなり、預貯金を切り崩したり、介護を受ける人の年金に頼る生活になることも。金銭的な不安を抱え、社会との接点もなくなって孤立したように感じることがあります。しばらくしてからもう一度働こうと考えても、思うように仕事が見つからない場合が少なくないのです。

「同居の家族、あるいは離れて暮らす家族に介護が必要になったとき、介護保険のヘルパーやデイサービス、ショートステイなどを利用して、働きながら介護をしている人が現在では多くなっています。『介護離職』をしないで介護を行うためには、介護を受ける人が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談し、介護サービスについての情報を得て、どうすれば働きながら介護できるかを探ることが大切です」と田中さん。自分が勤める会社にも介護のことを伝えると、勤務形態によっては「介護休業」「所定外労働の制限(残業の免除)」などの国の制度を利用することができる場合があります。働きながら介護するためには、一緒に働いている職場の人の理解を得ることも必要です。

「家族が年を取ってくると、いつ介護が始まるかわかりません。元気なうちから介護が必要になったらどうするかを家族で話し合っておくことです」と田中さん。

 
●介護する人が自分の時間を持つことで「介護うつ」や「虐待」を防ぐ

今後、団塊世代が70代になると介護を受ける人の数が増えるといいます。施設への入居が必要になっても、受け入れる施設が足りない状態が続くことが予想されます。国は自宅で介護しながら生活ができるよう在宅介護を推進していますが、在宅介護で気を付けなくてはいけないことがあります。それは、介護を必要とする人が一日中家にいると、介護する側の家族も肉体的、精神的な負担が大きくなり、ストレスを感じるようになることです。

家族の中で介護の中心となる人はとくに、自分ががんばらなければという責任感、相談できる人がいない孤独感、この状態がいつまで続くのかという不安感などが相まって、「介護うつ」になることがあります。うつになると、食欲がなくなり疲労感や倦怠感でやる気が起きず、夜、眠れなくなることも。介護うつから自殺という深刻な事態も起こりうるのです。

また、介護する人が追いつめられてしまったとき、悲しいことですが「虐待」という形で表れることもあります。虐待された人はもちろんつらいですが、虐待してしまった人もつらい状況に置かれます。自分が介護をしていて負担が大きいと感じたときには、がまんせずにケアマネジャーや地域包括支援センター、市区町村の介護担当窓口などに相談しましょう。

「デイサービスやショートステイは、介護する人のレスパイト(休息)の目的で多く利用されています。介護から離れて自分の時間を持ち、趣味や外出、友人とのおしゃべりなどを楽しむのはいいことです。気分がリフレッシュされストレスの軽減につながります。介護が家族の中の一人に集中しないように、ほかの家族もできることを分担することが必要です」と田中さん。

遠くに住んでいたり仕事を持っていたりして、介護に手を貸すことができない家族には、金銭的援助を頼むのも一つの方法です。そのお金でデイサービスやショートステイの利用を増やせば、それだけ介護する人の負担が減らせます。ほかにも、親戚や近所の人、仲良くしている友人など、いろいろな人の手を借りることがよりよい介護の秘訣です。

 
●周囲の人とのつながりの中で介護を行うAさん

70歳のAさんは75歳で要介護2の夫と2人暮らし。Aさんの6歳違いの妹が一駅ほど離れた場所に住んでいて、週に1回は顔を出してくれます。妹になら何でも話せるので、介護の相談相手になってもらえて心強く感じています。Aさんは介護で忙しく、最近はよくお惣菜やお弁当を購入するようになったのですが、妹はいつも栄養バランスのいいおかずを作って持って来てくれるため、助かっているそうです。

Aさんは近所にお茶飲み友達のBさんがいて、その人も病気の夫を介護。同じ立場の2人はたまにお茶を飲みながら、介護の愚痴などを言い合ってストレスを発散しています。お茶菓子を持ってお互いの家を訪問し、少しの間おしゃべりするだけですが、そんな機会を持つことが実は介護では重要です。また、近所に住むCさんは「誰がどのデイサービスを使っている」「ヘルパー事業所ならあそこがいい」というような口コミの情報をたくさん持っています。Aさんも評判のよい介護サービス事業所を教えてもらいました。

介護と直接は関係ありませんが、夫の体が不自由になり庭の手入れができず困っていたときに、「シルバー人材センター」のことを教えてくれたのもそのCさんです。シルバー人材センターとは自治体ごとに設置されていて、登録している高齢者が依頼された仕事を請け負う組織。事業内容は家事代行、ふすまの張り替え、庭木の剪定などさまざまです。早速、シルバー人材センターに電話して庭の手入れを依頼すると、すぐに来てくれて格安な料金で庭がきれいに。それからは定期的にシルバー人材センターに庭の手入れを頼んでいます。このようにAさんは、妹や近所のBさん、Cさんとのつながりを大切にして介護を続けています。

「よりよい在宅介護のためには、介護する人が精神的に安定していなければなりません。それには、介護を一人で抱え込まずに、周囲の人と良好な関係を築き、手助けや情報提供を受けながら介護をすることが望ましいと思います」と田中さん。

 

取材・文/松澤ゆかり

 

 

田中克典(たなか・かつのり)さん

1962年、埼玉県生まれ。日本福祉教育専門学校卒業後、東京都清瀬療護園、清瀬市障害者福祉センターなどで介護経験を積む。2000年に介護保険制度発足と同時にケアマネジャーの実務に就く。現在、SOMPOケア株式会社で主任ケアマネジャーとして勤務。著書に『現役ケアマネジャーが教える介護保険のかしこい使い方』(雲母書房)ある。

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