長く続いたデフレのトンネルから脱しようとする日本。しかし、世の中的に景気がよくても、それを実感できていない人は多いのではないでしょうか? 老後破産や格差社会の不安が広がる昨今、自分を守るために必要なのが「お金の教養」です。
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デフレの国からインフレの国へ
日本は今、金融緩和政策によってデフレから脱却しようとしています。安倍政権が掲げる目標は、2020年を目途に、日本を「インフレの国」にすること。そのために2013年から導入されたのが、異次元の金融緩和です。「金融緩和がデフレに効くなら、なぜ今までしなかったのか?」と疑問に思われるでしょうか。
実は過去 20 年間も、ずっと金融緩和は行われてきました。長らく超低金利時代が続いているのも、金融緩和政策の一環です。しかし、これまでのやり方では、市場に供給するお金の量があまりにも足りませんでした。アメリカやヨーロッパの金融緩和は、年間100兆円規模の大がかりなもの。対して日本が行っていたのは、 10 兆円程度のいささか生ぬるいものでした。
そこから脱却すべく放たれたのが、アベノミクスの第一の矢、「大胆な金融政策」です。日銀黒田総裁の主導のもと、年間 80 兆円もの資金供給が始まりました。結果、景気は着実に好転してきました。しかし再びデフレに戻る可能性もゼロではありません。中小企業の賃金はまだ上昇しない、地方の経済は活性化しないなど、影響は局所にとどまっています。この課題をクリアし、隅々にまでお金を行きわたらせることが必要です。そんななか、安倍首相が目指すのは2%のインフレ率です。
前述の通り、インフレ率の適度な数値は2~4%。2~4%が、お風呂でいうところの適温です。なので「適温経済」「適温相場」という経済用語が使われているのです。アメリカも同様に、2%のインフレ率を目指しています。このインフレ率2%に実質経済成長率2%を足した「名目経済成長率4%」と、それから「GDP600兆円」を達成するのが、目下、日本政府の掲げる目標。経済成長率とは、GDPの増加率のこと。
この増加率から物価変動分(インフレ率やデフレ率)を引いたものが、実質経済成長率です。2017年の実質経済成長率は1.5%と、そこそこ目標に近づいてきています。GDPも544兆円と、着実に伸びてきました。対してインフレ率は0. 37 %。目標達成には道半ばです。
インフレ転換に欠かせない3つの要素
では、インフレ率2%にするには何が必要でしょうか。政府が重要視しているポイントは三つあります。
一つ目のキーワードは、内需の拡大。皆さんがモノやサービスをどんどん買うことです。お金を使うことです。これはなかなか上げるのが難しい状況です。デフレを 20 年も経験すると、人々の消費意欲にはなかなか火がつきにくいもの。
しかも、そもそも日本人にはもう「要るモノがない」のです。戦後からの経済成長と産業の発展のなかで、日本の消費文化はもう十分に成熟してしまいました。テレビも冷蔵庫もエアコンも、生活に必要なものは隅々まで行きわたっています。若い人は、それらのない時代など想像もつかないでしょう。
そんな豊かな国ですから、日本人がこぞって買いたがるような商品を生み出す余地は、極めて少ないのです。そこで登場した新たなターゲットが、外国人です。観光客を増やしてたくさんお金を落としてもらう、「インバウンド」を増やそうとしているのです。
ここ数年で、外国人観光客を街中で見かける機会は激増しました。現在、1年間に日本を訪れる観光客の数はほぼ3000万人(日本政府観光局調べ)。しかしそれは通過点に過ぎません。政府が掲げる目標は、2020年に4000万人、2030年に6000万人。そのために数々の規制緩和─民泊新法の制定、宿泊施設の運営条件の見直し、チャーター便航空券の個人客へのバラ売り許可などを行い、外国人が訪れやすい環境を整えています。
二つ目のキーワードは、第4次産業革命。IoTやAI、ロボット等の活用によるビジネスの革新が今、世界中を席巻しています。ちなみに第1次は 18 世紀後半の英国に始まる、あの産業革命です。これにより社会に「機械化」がもたらされました。
第2次産業革命は、 19 世紀の電力の普及による大量生産・消費社会への移行。第3次はコンピューターによるオートメーション化が革新ポイントでした。第4次産業革命においてもコンピューターが深く関わりますが、今回は「考える機械」であることが大きな違いです。今まで人間が担ってきた思考の部分を、機械が行ってくれるのです。
つまりAI(人工知能)の活用です。これは、少子高齢化が進んで労働人口が少なくなっていく日本にとっての生命線。生産性を上げるには、足りない人手を補う機械の知能が不可欠だからです。この分野のさらなる発展に向け、政府は助力を惜しまない姿勢を見せています。
三つ目は、これまたおなじみのキーワード、働き方改革。労働時間の削減や賃金体系の見直しなどさまざまな側面をもつ政策ですが、とくに注目すべきは、女性と高齢者への期待です。高齢者の年金受給開始年齢の引き上げ、女性登用の推進等の政策は、労働人口の減少に対抗して生産性を上げるための努力なのです。
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スガシタパートナーズ株式会社代表取締役。国際金融コンサルタント。投資家。学校法人立命館 顧問。メリルリンチをはじめとする名門金融機関で活躍後、現職。
変化の激しい時代に次々予想を的中させることから「経済の千里眼」の異名をもち、政財界にも多くの信奉者をもつ。『今こそ「お金の教養」を身につけなさい』(PHPビジネス新書)、『マネーバブルで勝負する「10倍株」の見つけ方〔2018年上半期版〕』(実務教育出版)など著書多数。
(菅下清廣/KADOKAWA)
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