『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』 (保坂 隆/明日香出版社)第6回【全7回】
「老後」について、不安なことを耳にする機会が多い昨今。老後とは本当に怖いものでしょうか? 保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆氏は、著書『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』のなかで、「老後ほど好きに人生を楽しめる時期はない」と言います。ただし、それには手元のお金をやりくりする力が必要です。具体的には、どのような点に気を付ければよいのか。やりくりのコツを見ていきましょう。
※本記事は保坂 隆著の書籍『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)から一部抜粋・編集しました。
行政に頼るのは恥ずかしいことではない
私の患者さんに、71歳のひとり暮らしの女性がいます。要支援(多少の支援や部分的な介助が必要)の認定を受けていて、それほど多くない年金だけで暮らしているそうです。
経済的には余裕があるとはいえない状況ですが、いつも身ぎれいにしていて、医師の私から見ても健康状態はおおむね良好です。
髪もきれいにしています。あるとき、「いつもお元気そうですね。髪の手入れもよくしていらっしゃるようで」とお聞きしたことがあります。
すると、こちらの考えを見透かしたようにこう答えてくれました。
「役所がいろいろと面倒見てくれるんですよ。自分は足が悪くて遠くまで外出できませんから、役所が人をよこしてヘアカットまでしてくれます。いちおう何がしかの税金を払ってきたわけだから、使えるサービスはどんどん使おうかと思っています」
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(令和3年)によると、高齢者(65歳以上)世帯の所得は、2014年=297万3000円、2018年=312万6000円、2020年=332万9000円と、いずれの年も全世帯の平均所得を大きく下回っています。また、高齢者世帯では、所得のうちの約
60%を公的年金が占めています。高齢者問題の専門家によると、近い将来、シニアの9割が生活困窮者になる可能性があるとのことです。
では、どうすれば、そんな事態を回避できるのでしょうか。
答えは、可能な限り行政サービスを利用することです。
最近は、どの自治体でもシニアに対する行政サービスに力を入れています。シニアのなかには「施しなど受けたくない」と言って、この手の行政サービスを拒否したり敬遠したりする人がいますが、これらのサービスは決して「施し」ではありません。ゆくゆくは行政のためになるサービスなのです。
病気やケガが悪化したり、寝たきりになってしまうと、行政の負担は限りなく大きくなります。逆に元気で暮らすシニアが増えれば、介護サービスや医療保険への支出を減らせます。つまり、行政サービスは、施しではなく、「転ばぬ先の杖」なのです。
こうした明確な理由があるのですから、遠慮したり拒否したりせず、使える行政サービスはどんどん利用すべきでしょう。行政サービスは自治体によって異なります。あなたがお住まいの地域の自治体にはどのようなサービスがあるのか、一度確認しておきましょう。調べてみると、「えっ!? こんなこともやってくれるの?」とびっくりすること請け合いです。